数日前に、どういうわけか、Hと一緒にいるはずのH君から メッセージが入っていた。
「今日本に戻ってきたところです。ちょっと怪我をしてしまったので、 僕だけ先に帰ってきました。詳しい状況については今説明する訳にいかないのでまた電話します」とあった。
あの連中は、いつもいつも、シリアスな状況を、 七掛けか六掛けぐらいにして送ってよこす。 バーゲンセールのように。小学生の根性試しのように。
だからもう私は馬鹿馬鹿しくて、七掛けなら七掛けのまま 連中の状況を受け取めることにしている。あっそう、と。
そんなH君となかなか連絡がつかなかったが、やっと電話がかかってきた。 実はその時までに、私は留守本部のIさんから 大体の話を聞いてしまっていたのだけれど、 H君の元気な声を聞くことができて、やはり良かったと思った。
H君は、カムが外れて落ちたのだけど、ロープが結構出ていたことと、 鐙に足を引っ掛けてしまったので、靭帯を激しく痛め、 登攀不能となったのらしい。
そして、隊は、−Hは−、一応は山頂へ行ったらしいけれど、 所定のルートでの登攀は達成できなかったのらしい。要するに失敗である。 これまでにない最強メンバーで挑んだ、多分年齢的にも最後のトライが、 無念に終わったのらしい。 今は、口直しに二つ目の山を登っているはずだとのこと。
「皆さんの足をひっぱちゃって」とすまなそうに言うH君に、 そんなこと関係ないよ、一緒に行ってくれてありがとう、と思う。
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電話を終わって、台風通過中の中、駅ビルに買い物に行く。 こぎれいな店内で、沢山のオリーブオイルやバルサミコやアルプス岩塩やサンダルフォーのジャムなどを物色する。 あれもこれも、買い足しておかないと向こうでは手に入らないなあと思いながら、まとめ買いの算段をする。
無念だっただろうな、と、考えないようにしても、ところどころで 思いが顔を出す。
人が直面する無念が、自分の中に流れ込んでくるというのは、 今日の嵐のようにハードだ。 棚にびっしり並んだオリーブオイルを物色することぐらいしか、 なすすべがない。
あの連中はまた、無念さも7掛けや6掛けで報告してくるので、 その時はやはり7掛けや6掛けで受け止められるように、 私は頑張ろうと思った。
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