6月に入るとこの辺りの女たちは とりつかれたように梅の加工に邁進する。
物資の行き届かない山国であった頃の遺産なのか、 梅に限らず、保存食づくりには強迫的な気風さえ感じる。 我が家もこの気運にお相伴すべく、5kgほど仕入れる。
青い梅は、Aのジュース用。 青梅は梅酒が通例だったが、譲歩することにした。 煮沸したビンに青梅と蜂蜜とりんご酢を入れ、 きっちり蓋をする。お楽しみは2ヶ月後。 Aは自分用というのが嬉しいらしく、 始終、中の様子を検査している。
次に、黄色く熟した南高梅を、塩漬けにする。 梅、塩、梅、塩、と順に重ねていく。 最期に全量の四分の一ぐらいの塩で蓋をして、 Hの運動用の鉄アレイを重しに乗せて、完了。
天日干しを開始する土用の日まで、 梅にカビが生えないように、 きれいな梅酢があがってくるようにと心血を注ぐ信州人は、 6月20日の今日現在、相当数存在すると思われる。
こういう季節限定の加工業務は、 日々の暮らしに追われる中で、年や季節のスパンで物事を考え 気持ちを安定させるきっかけになるのだ。
だから、「梅漬けは面倒だけれど、やらないとその年はずっと落ち着かない」 という女たちの会話が、 この街のここそこで聞かれるのである。
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