浅間日記

2004年06月18日(金) 東大の壁

養老孟司を酒の肴に、Hと深酒。一昨日前のことだ。

「唯脳論」「バカの壁」以降続く氏の著作は、
エッセイであり「主観の入った科学読み物」である。

養老本人も「大学のしがらみから解放されてはじめて書けた」
と述べているとおり、
なぜ養老孟司は、リタイア後にしかこういうエッセイを書けなかったのか。

Hの意見は、
科学者とスポーツ選手は「真理の追求」をモチベーションにするから、
そこに主観を交えたり、また人に平易に教えたりすることは
邪道とされるのだろう、というもの。

しかし中田英寿などは、第一線でありながら東ハトの経営に参画し、
自分の専門であるサッカーで得た経験でもって
確実に会社の企業文化や経営戦略を変えている。

養老孟司の良し悪し、賛否両論は別として、
養老のいう「自分ではない、本物の脳科学者」が、ネイチャーやサイエンスなど
一流学術誌に発表する論文や著書よりも、
「バカの壁」がはるかに多くの人に読まれ、
現代の市井の人々の心を揺さぶったことは事実である。
こういうことを、一般読者はともかく
科学者達は、あまり馬鹿にしてはいけないと思う。

とりわけ自然科学の分野においては、
色々な専門分野の研究開発というものが、
人の生き方や価値観に与える影響は大きく、
「人間自身の取り扱い説明書」のような働きを示す。

だから研究者は、研究内容が最先端であればあるほど、
大学や研究機関から普通の人々へ向けて情報発信し、
経済や政治の作用に拮抗する「科学の力」として、
存在していてほしいのである。



全く蛇足であるが、Hと会話を切り上げるとき、
きみの場合は岩ばかり登っているから「壁のバカ」だね、
と言ったら、すごく嬉しそうに喜んでいた。やれやれ。


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