養老孟司を酒の肴に、Hと深酒。一昨日前のことだ。
「唯脳論」「バカの壁」以降続く氏の著作は、 エッセイであり「主観の入った科学読み物」である。
養老本人も「大学のしがらみから解放されてはじめて書けた」 と述べているとおり、 なぜ養老孟司は、リタイア後にしかこういうエッセイを書けなかったのか。
Hの意見は、 科学者とスポーツ選手は「真理の追求」をモチベーションにするから、 そこに主観を交えたり、また人に平易に教えたりすることは 邪道とされるのだろう、というもの。
しかし中田英寿などは、第一線でありながら東ハトの経営に参画し、 自分の専門であるサッカーで得た経験でもって 確実に会社の企業文化や経営戦略を変えている。
養老孟司の良し悪し、賛否両論は別として、 養老のいう「自分ではない、本物の脳科学者」が、ネイチャーやサイエンスなど 一流学術誌に発表する論文や著書よりも、 「バカの壁」がはるかに多くの人に読まれ、 現代の市井の人々の心を揺さぶったことは事実である。 こういうことを、一般読者はともかく 科学者達は、あまり馬鹿にしてはいけないと思う。
とりわけ自然科学の分野においては、 色々な専門分野の研究開発というものが、 人の生き方や価値観に与える影響は大きく、 「人間自身の取り扱い説明書」のような働きを示す。
だから研究者は、研究内容が最先端であればあるほど、 大学や研究機関から普通の人々へ向けて情報発信し、 経済や政治の作用に拮抗する「科学の力」として、 存在していてほしいのである。
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全く蛇足であるが、Hと会話を切り上げるとき、 きみの場合は岩ばかり登っているから「壁のバカ」だね、 と言ったら、すごく嬉しそうに喜んでいた。やれやれ。
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