「世間は狭い」とよく言うが、田舎の狭さは都会の比ではない。 習い事で、同じ教室の人から声をかけられた。 「春さんて、もしかして……」 ああまたか、と思った。 どこに行っても、珍しい苗字のせいで、主人の仕事関係の人には、すぐにばれてしまうのだ。 ええ、ええ、そうですよ。 春の家内でございます……。
誰某さんが習い事で同じ教室でしたよ、と主人に報告すると、あーあの人ね、と理解していた。 「ね、離婚しようか」 と私が切り出すと、主人は驚いていた。 「どうして?」 「だって、どこに行っても、すぐに私があなたの妻だとばれてしまうでしょ。春さんの奥さんて、あんな人なんだ……って貴方は言われるのよ、嫌じゃない?」 と私が正直に言ったのに、主人には良くわからないらしい。 「別に良いけど?」 そうですか……。 故意に貴方の顔に泥を塗るつもりは更々無いけれど、他人の目を気にして生活するって、とても難儀だと思うの。 私は誰に対しても愛想の無い影の薄い人間として生きていたいのに、それは無理な話なのかしらね。
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