何年も前に入居していた新築物件は、主人に健康被害を齎した。 今更因果関係の証明は出来ないし、当時でも立証は難しかっただろうが、主人の花粉症を誘発したのはそれに違いないと、彼は殆ど確信しているようだ。 鈍い私もある日突然化学的な匂いに気付き、部屋の使い勝手が悪かった事もあり、そこは僅か3箇月で退去したのだった。
賃貸物件を転々としているが、羹に懲りて膾を吹く状態で、それ以来新築物件は避けている。 尤も田舎なので、新築物件自体が少ないのだけれど。 現在の住居は、今月で3年目に突入した。 新築ではないが比較的築浅で、部屋数は少ないものの、綺麗で収納がたっぷりあるのが有難い。 しかし、窓を開けると下水の匂いが酷い。 あまりに酷いので役所にもメールしたが、改善する気は無いらしい。 無駄にオールカラーの広報誌を発行する金といつ来るかわからない防災工事に注ぎ込む余裕があったら、こっちに回して欲しいんだが。 この匂いと来たら、こんなクソな町なんて洪水で流されろと割と本気で思ってしまうほど、私を人でなしにするには充分な酷さなのである。 暖かくなるにつれて街中は酷い匂いで溢れ返るので、どんなに天気が良くても暑くても、窓は余り開けられないのだ。
昨夏は特に匂いが酷く、窓を閉め切って家の中に引き籠もっていても、ずーっと嫌な刺激臭が漂っていた。 寝室とトイレと風呂場は何とも無いが、台所と繋がっている居間が酷い。 これは台所の排水口から匂って来るのか? 排水口を洗って、市販の薬剤を中に投入して、一旦は収まったように見えたものの、暫くするとまたぶり返した。 涼しくなったら収まるだろうと思っていたのに、冬になっても変わらない。 窓枠の修理に来た設備業者に訴えてみたものの、どこの家でも多少は匂うものだと言われ、プロがそう言うのだしそういうものなのかと一度は納得しようとしたが、もう我慢の限界である。 思えばずっと喉の奥がちくちくするような、嫌な感じが続いているのだ。 これはもう一度大家に訴えなければと思っていたら、調味料を探して流しの下の扉を開けた主人が悲鳴を上げて曰く、 「何だこの匂い! 目に沁みたぞ」 と。 意を決して懐中電灯を片手に、這い蹲って流しの下を覗き込んでみたら、やはり。 刺激臭は排水口ではなく、排水管が続いている穴から出ていた。 蓋のような物が一応付いているのだが、素人目にも明らかにサイズが合わず、きっちり閉まってくれない。 応急処置として厚紙で即席の蓋を付けてみたが、相手は気体なので、ガムテープか何かでぐるぐるに封じないと駄目だろう。 取り敢えずこれで我慢して、明日1番に大家に怒鳴り込み訴えに行かなければ。
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