前述の、スーパーで見掛けた客の嫌な素行に関して、主人に愚痴を言ったその夜の事。 多分関連があるのだろう、嫌な夢を見た。 嫌というか、恐怖だった。
私はスーパーの雑誌コーナーで立ち読みをしていた。 対面時の雑誌立てなので、雑誌立てを挟んで向かいにも人がいる。 あれは明らかに普通の人とは違うなあ、若い女の子なのにと思って雑誌に目を落としたその時、ふっと向かいにいた筈の少女が消えた。 あれ?と思って顔を上げると、その少女は、私の左真横にいた。 一瞬で高速移動したのか! 驚いた私は、思わず右に跳び退った。 彼女の手には、チェーンソーが握られていた。 白い刃は回転はしていなかったが、私をびびらせるには充分だ。 そこでナレーションとともに映像が流れた。 床に夥しい量の血が、チェーンソーで半分に切断された人間の体から流れ出ており、被害に遭ったのは太った中年女性で、その場に居合わせただけの客であったという。 女性は一命は取り留めたものの、現在も半身不随、加害少女は刑法39条により無罪放免になったという話だった。 何でそんな危険人物が野放しにされてるのさ! 少女はチェーンソーを持って私を追いかけて来る。 こっち来んな!
という、実に疲れる夢であった。 腰の上で体を切断されたのに死なないというのも不思議だが、まあ夢だから。 こんな話をすると障害者団体から猛抗議されそうだが、所詮夢の話だし、所詮は夢でも私は怖かったので仕方ない。第一、見たくて見た訳じゃなし、私に責任は無かろう。 目覚めた序でにトイレに行って、からからに渇いた口を水で潤して寝床に戻ってからも、怖さは完全には消えなかった。 このまま眠って、悪夢の続きを見たらどうしよう。 そんな事を思っていたら、また怖くなって来たので、主人に抱き着いた。 「ねえねえ、怖い夢見たの」 主人はよしよしと頭を撫でてくれて、指でくるくると私のおでこを撫でた。 くるくる……ん? 「なんて書いたの?『んち』しか判らなかったんだけれど」 「うんち」 うんち!? なんでうんち? 返事は無かったが、うひゃひゃと笑ってしまった。
翌朝、主人に訊いてみた。 「ね、昨夜、わたしのおでこに『うんこ』って書いたの、覚えてる?」 「違う。『うんこ』じゃなくて『うんち』」 覚えているという事は、寝惚けていたんじゃないのか。 「何故うんちなのっ」 「シオンがうんちなら、臭いから怖い夢も寄って来ないよ、って」 あれは、『私=うんち』という意味だったのか……。 微妙な気分になったが、確かにあの後怖い夢は見なかったな。 もしかしてそのマジナイ、効いたのか!?
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