天上天下唯我独尊

2007年08月05日(日) 泣いた赤鬼

出張から帰って来た主人が、電車内での出来事を語ってくれた。

指定席を取ったので、自分の席へ向かうと、そこには何故か既に、見知らぬ親子連れが腰掛けていた。
券と座席の表示を見比べると、やはり同じ番号なので、声をかけた。
「すみません、そこは私の席だと思うのですが。もしかすると、席をお間違えじゃないでしょうか」
すると、気の弱そうな父親が、慌てて謝った。
「す、すみません。おいっ、お前ちゃんと確認したのか?」
せっつかれた奥さんは、乗車券を取り出した。
「えーっと……ごめーん、7番〜」
「馬鹿っ。何やってるんだ! 本当にすみませんすみません」
父親は過剰なまでに謝罪して、本来の自分の席に戻って行った。

しかし、一寸した番号違いだったので、席は近い。
トイレに立った時も、主人はその父親と鉢合わせた。
すると父親は「ああ〜下手こいた〜」という顔をして、
「本当に、すみませんすみません」
としつこく謝って来た。
主人が、
「いや、大した事ではありませんから、どうかお気になさらずに」
と言っても、である。
そして目的地が近付くと親子連れは、素早く荷物を纏めデッキに移動してドアの真ん前に陣取り、同じ所で降りる主人が数人後ろに並んでいると、
「よしっ、行くぞ!」
と、ドアが開くや否や脱兎のごとく逃げて行ってしまったそうである。

その話を聞いて、私は大笑いした。
「そんなに睨み付けたの?貴方」
「とんでもない! シオンじゃないんだから、頭ごなしに怒鳴りつけたりせずに、丁寧に笑顔で『すみませんが』って言ったよ。最後に走って行ったのは、乗り換えの都合があったのかも知れないけれど、なんでそこまで?ってぐらい必死で謝って来るんだよね……何だったんだろう」
うちの主人は、目付きが鋭くて一見怖いが、実は大変温和な性格である。
私の方がよっぽど(以下略)。
「そりゃあ、貴方の見た目が怖かったからでしょうよ〜。ヤクザか何かと間違われたんじゃないの? 今度から、サングラスかけて電車に乗ってよ。絶対面白いって」
一頻り笑ったら落ち着いた。
「でもさ、貴方も可哀相よね。幾ら人は見た目が9割とは言え、本当は優しいのに顔で怖がられるなんて。まるで、『泣いた赤鬼』ね」
と私が言うと、主人がすかさず呟いた。
「勝手にシオンの仲間にしないで」
仲間……。
ええと、それはどういう意味かな!?


 < 過去  INDEX  未来 >


春 紫苑 [MAIL]

My追加