出張から帰って来た主人が、電車内での出来事を語ってくれた。
指定席を取ったので、自分の席へ向かうと、そこには何故か既に、見知らぬ親子連れが腰掛けていた。 券と座席の表示を見比べると、やはり同じ番号なので、声をかけた。 「すみません、そこは私の席だと思うのですが。もしかすると、席をお間違えじゃないでしょうか」 すると、気の弱そうな父親が、慌てて謝った。 「す、すみません。おいっ、お前ちゃんと確認したのか?」 せっつかれた奥さんは、乗車券を取り出した。 「えーっと……ごめーん、7番〜」 「馬鹿っ。何やってるんだ! 本当にすみませんすみません」 父親は過剰なまでに謝罪して、本来の自分の席に戻って行った。
しかし、一寸した番号違いだったので、席は近い。 トイレに立った時も、主人はその父親と鉢合わせた。 すると父親は「ああ〜下手こいた〜」という顔をして、 「本当に、すみませんすみません」 としつこく謝って来た。 主人が、 「いや、大した事ではありませんから、どうかお気になさらずに」 と言っても、である。 そして目的地が近付くと親子連れは、素早く荷物を纏めデッキに移動してドアの真ん前に陣取り、同じ所で降りる主人が数人後ろに並んでいると、 「よしっ、行くぞ!」 と、ドアが開くや否や脱兎のごとく逃げて行ってしまったそうである。
その話を聞いて、私は大笑いした。 「そんなに睨み付けたの?貴方」 「とんでもない! シオンじゃないんだから、頭ごなしに怒鳴りつけたりせずに、丁寧に笑顔で『すみませんが』って言ったよ。最後に走って行ったのは、乗り換えの都合があったのかも知れないけれど、なんでそこまで?ってぐらい必死で謝って来るんだよね……何だったんだろう」 うちの主人は、目付きが鋭くて一見怖いが、実は大変温和な性格である。 私の方がよっぽど(以下略)。 「そりゃあ、貴方の見た目が怖かったからでしょうよ〜。ヤクザか何かと間違われたんじゃないの? 今度から、サングラスかけて電車に乗ってよ。絶対面白いって」 一頻り笑ったら落ち着いた。 「でもさ、貴方も可哀相よね。幾ら人は見た目が9割とは言え、本当は優しいのに顔で怖がられるなんて。まるで、『泣いた赤鬼』ね」 と私が言うと、主人がすかさず呟いた。 「勝手にシオンの仲間にしないで」 仲間……。 ええと、それはどういう意味かな!?
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