愈々寒くなって来たので、タイヤをスタッドレスに替えた。 無論自分では出来ないので、ガソリンスタンドにお願いした。 そうしたら、そろそろ新しいタイヤに買い換えた方が良いと言う。 晩御飯は、鍋物にした。 温かいし、楽ちんだし、そろそろおでんもいいねえ。 などと話しながら食べていて、私はゆずぽんの瓶に手を伸ばした。 しかし瓶を振りながら、自分の近くに持って来る途中で、手が滑ってしまったのだ。 落下地点には運悪く、私のとんすいがあった。 飛び散る野菜や肉。 汁がぽたぽたとテーブルから垂れ、床を濡らした。 エプロンをしたままの私の膝にも、榎茸と肉が飛んでいた。 動いたらエプロンの水溜りも瓦解してしまう。どうしよう。 私が呆然として、膝の榎茸と肉を手掴みで食べていると、 「あーあ。ほら、これで拭きなよ」 と、ダーリンが台拭きを持って来てくれた。しかしこれでは到底足りない。 仕方が無いので立ち上がると、エプロンの上の汁溜りが床に落ちた。 洗面所の雑巾もバケツごと、全部持って来て欲しかったのだが、台拭きを持って来たら自分の役目は果たしたとばかりに、自分だけ食事の済んだダーリンは、既にそっぽを向いてPCで遊んでいた。 零したのが彼だったら、こうは行かない。 雑巾やら何やら持って来て床を掃除し、彼を風呂場に追い遣り、着替えまで用意するのは、きっと私なのだ。 しかし私が零した場合、私が全部自分でやらなければならないのは何故だろう。 釈然としない思いを抱えつつ、半ば諦めて、私はとぼとぼと、水を滴らせながら風呂場に向かった。
エプロンを脱ぎ、水でざっと洗い、洗濯機に放り込んだ。 ズボンも靴下も濡れていたので、同じく洗濯機へ。 結構な嵩になったし、明朝まで放置すると汚れが染み付いてしまいそうな気がしたので、夜だけれど深夜じゃないので、洗濯機を回した。 スリッパにも汁が染み込んでいたので、これはゴミ箱に。 洗えないスリッパだし、夏中使ったのでもういいかなと。 上とパンツだけは無事だったので、ズボンだけ履き替えた。
居間に戻ると、テーブルの上の食器は殆ど片付いていた。 「すいとんに罅が入っていたから、まだ中身は残っていたけれど、捨てちゃったよ。欠片が入っていたら危ないからね」 床もテーブルも水溜りはそのままだが、遊んでいる振りして、少しは手伝ってくれたのか。 お礼を言って雑巾がけをしていると、また彼が言った。 「これがシオンの実家だったら、絶対怒られてるね」 「うむ……」 確かに、うちの親なら怒る。零すのは、行儀が悪いからだと。 「貴方のおうちでは怒られないの?」 と訊くと、 「うちは、やっちゃったもんは仕方ないって考えだからなあ」 だそうで。 確かにそうだわな。
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