先日、半年振りに美容院に行った。 前々から行きたいとは思っていたのだが、予約の電話を入れるのが億劫だったのだ。 まあまあ良かったから前回行った美容院にしようか、それとも新規開拓しようか迷ったが、そんなある日、郵便受けにちらしが入った。 「開店記念・半額」の文字に惹かれ、私はその店に電話した。 「もしもし」 と電話に出たのは、若い女の子……ではなく、明らかに中年男性の声だった。 間違いましたすみません!と私が言う前に、男性は店名を名乗ったので、間違い電話ではなかったようだ。 でも、美容院におじさんがいるのって、珍しくないか? 嫌な予感がしながらも、私は予約を入れてしまったのだった。
私は翌日、約束の時間に、お店の入っているビルの前に立っていた。 ちらしによると、美容院は2階なのだが、1階には床屋さんが入っている。 競合しないのかしらと思いながら、矢印に従って外階段を2階に上がると、美容院の裏口が見えた。 入り口はどこ?と探したが、どうやらこの狭い間口が、店の入り口らしい。 ……そこはかとなく、嫌な予感がした。 早くここから立ち去ってキャンセルの電話を入れよう、と思ったその時、店の中のおじさんが私に気付いて声をかけて来た。 「ご予約の方ですか?」 「あ……」 いいえ、違いますとも言えず、私は中に入ってしまったのだった。
店の中は、一言で言うと、寄せ集めだった。 普通のビルの一室に、急拵えなのか、種類の異なる鏡台や椅子が並べられており、非常にちぐはぐな印象である。 全く「美容院風」ではなく、「床屋風」な美容室って……。 私は早速、後悔の嵐の只中にいた。 しかし私は既にシャンプー台に寝かされ、最早俎上の鯉である。 おじさん以外で唯一店の人間である、助手らしき女性(女の子というほどの歳ではなかった)が洗髪してくれたのだが、シャンプーの匂いがきつ過ぎて辛い辛い。 しかもこの女性、頭を拭く時に、耳の奥にグリグリと!指を突っ込むではないか! 思わず飛び上がって、イヤイヤしてしまった。 普通、外耳の水をそっと拭き取る程度だろうが……脳味噌まで拭き取る気か? ああもう帰りたいよ……。
おじさんのカットの腕は悪くなかったが、ロッドの巻き方が悪いと客の前で女性従業員を怒ったり、なんだかなあ〜と思ってしまった。 髪を切って貰っている時に気付いたのだが、店の中には階段があり、1階の床屋と繋がっているのだった……なるほど、それで美容院におじさんがいる訳か。 パーマ液を落とすために洗髪した私は、またしても、イヤイヤをする破目になった。 ……お願いだから、学習して下さい。 再度鏡の前に座った私は、愕然とした。 ゆる〜くかけたはずのパーマが、結構グリグリだったのだ。 しかし、あら不思議、ブローをしたらそれなりの髪型に。 と言う事は、これから暑くなるというのに、自分でも毎回ドライヤーをかけねばならないのか? めんどくせー。
次の日の夜、風呂上がりの私は鏡を見てショックを受けた。 これじゃまるで、「弁護士のくず」の豊川悦史じゃないか! 半ば現実逃避でその夜はすぐに寝てしまったが、私は翌朝更にショックを受けたのだった。 鏡の中にいたのは、片山さつきだった……。
おじさんは、1週間ほどで髪形が落ち着くと言っていたが、1週間どころか10日経っても落ち着かないんですが。 近いうちに、私はまた美容院に行くだろう。 勿論、あの店には、2度と行かない。
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