幼い頃、私はモンブランが嫌いだった。 私はモンブランを「蕎麦ケーキ」と呼んでいた。 ケーキの上に蕎麦が載っているのだと思い込んでいたのである。 つまり、食わず嫌い。 「騙されたと思って、一口だけ食べてごらん」と言って食べさせてくれた母に感謝である。 勿論それ以来、モンブランは大好物である。
百貨店の地下には、美味しそうな物が並んでいる。 時々行くと数回に1回は贅沢をして、何かを買って帰る。 1個200円のいなり寿司は、流石に美味しかった。 しかし5個で1,000円なので、滅多に買えない。
先日もふらふらと徘徊していると、これまた美味しそうなショートケーキがちょこんと鎮座していた。 しかも、私の大好きなモンブランで、一寸変わった形をしている。 まるで、硝子の向こうで私を呼んでいるよう……。 隣りの苺ショートと1個ずつ、思い切って買ってしまった。 夕食後に紅茶を淹れて、わくわくしながらケーキの箱を開けた。 ダーリンには苺ショート、私はモンブラン。 「頂きまあす♪」 と口に運んだ途端、私の表情が変わった。 「あれ。シオン、美味しくなかったか」 「うん」 眉間に皺が寄る。 「だってこれ、モンブランの蕎麦部分がバタークリームなんだもん!」 幼い頃は生クリームもバタークリームも大好きだったが、今では生クリームしか受け付けない体になってしまった私。 だってバタークリームって、しつこいんだもん……。 「これイラナイ。貴方にあげる」 と言って、皿ごとダーリンの前に押し遣ると、 「じゃあこっちのケーキをシオンにあげるよ。僕バタークリームでも平気だし」 と交換してくれた。 苺ショートはまあまあだったが、モンブランが見掛け倒しだった事に私は腹を立てていた。 高かったのに!!
そして今日、全国の美味しい物を集めた催事があったので、またモンブランを買って来た。 今度は東京のモンブランだ。 わざわざ東京から来るんだから、不味い筈がない。 そしてまた夕食後に 「頂きまあす♪」 と口に運ぶ。 「……」 「また駄目だったか」 「うん……これもバタークリームだわ」 リベンジならず。 何が東京の人気店だバカヤロー。 これなら近所のケーキ屋の方が100倍美味いじゃないかっ。 「美味しいケーキだなんて嘘吐きやがって、金返せええ!」 と怒りまくる私に、呆れるダーリン。 「本当に文句言いに行きそうで怖いなシオンは……」 杞憂ですよっ。
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