泊り掛けで出掛けるのは、余り好きではない。 荷造りなどの準備が面倒だし、家に戻ると、いつもより多くの洗濯と掃除が待っている。 それに加えて今回は、ダーリンが死に掛けていた。 私が里帰りする前から具合が良くないとは言っていたが、私のいない間にどんどん悪くなっていたようで、土日は寝たり起きたりだったらしい。 「ごめんね、特別な用事でもないのに病人を置いて行ってしまって」 と私が謝ると、 「いいの。シオンも時々は顔見せに行かないと。お義父さんもお義母さんも喜んでたでしょ」 と私の両親の事を気遣ってくれる。
体のあちこちが痛いのはいつもの事だが、今回は胸がどきどきしたり、呼吸が出来なくなったりするらしい。 少し前の心電図には異常は無く、心臓は何ともないとお医者に言われたのだが、本人は苦しがっている。 「何が悪いんだろうねえ。細木数子が言うように、お墓参りにでも行って来る?」 と私が提案してみても、 「ううん。今の時期は雪に埋もれてるから無理」 と言う。 医者に行って判らないなら、霊障なんじゃないのか? まあ、それで変な自称霊能者に引っ掛かるのは御免だが。
病人が弱気になっているので、一寸からかってみた。 「ねえ、私がいなくて寂しかった?」 すると彼は珍しく素直に 「うん。寂しかった」 と言うではないか。 そんなにしんどかったか……。 「シオンはお義父さんとお義母さんの子供だけれどさ、もう僕の奥さんなんだから、あんまり家を空けないでね……」 悪かったよ……。 でも、私が一方的に家を出て行ったんじゃなくて、貴方の許可を貰っての里帰りだったんだから、辛いなら遠慮せずに言えば良かったのに。 言わなくても解る関係が彼の理想らしいが、私は彼と違って霊能力者でも何でもないのだから、ちゃんと言って貰わないと解らない。 そもそも言葉って、気持ちを伝えるためのものなのだから。
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