日々是迷々之記
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昨日の日記を書いた後、私はやはりこんなことではいけないと思い立ち、小雪の降る中、巨大ショッピングモールに赴いた。
目的は宝石屋、もといジュエリーショップである。私はここで勇気を出して正しいサイズを測り、手の造形にマッチした正しい指輪を選んでみようと思ったのである。(あくまで選ぶだけである。財布の中は3000円しか入ってないし。)
まず入店し、カウンターを目視する。20代前半とおぼしきカップルがムフンと指輪を選んでいる。エビちゃんを百叩きにしたような今風の女子はたくさんの指輪を臆することなくとっかえひっかえ指にはめ、芸能人オーラを取っ払った妻夫木くんのような彼氏にどれがいいか訊いている。これが結婚を考えつつある若いカップルの姿のようだ。
指輪と値札を見比べ、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、と心の中でつぶやきながら、どしゃー!36万円。パワーブック買えるし、などと一人脳内ツッコミをやっていたら、どのようなものをお探しですか?とお店の人が来た。
これがよく行くソ○マップなどとは違うのは、店員さんがメガネをかけていないことだ。パソコン系ショップの店員さんてメガネの人多いような気がする。さて、そのジュエリーショップの店員さんは、KABA.ちゃんを若返らせたような好青年だった。威圧感もなく話しやすい。私は正直にサイズを測りたい、どんなデザインが自分の指に合うかわからないと伝えた。膝のうらにたらりと汗をかいたような気がする。
そのKABA.ちゃんはこれまたKABA.ちゃんスマイルで、サイズを測るための指輪の束のようなものを取り出して「こちらでいかがですか。」とはめてくれた。15号、これは指の真ん中で止まった。17号、ふぬん!と鼻に力をこめてはめてはずす感じ、一応入る。18号、するっと入るが手を振ったら飛んでいく可能性もあるなと思った。
よく考えたら21号だったときはデブ全盛期の時だ。回転寿司を20皿くらい食べていたころだ。今は10皿がほどよい。多少は痩せたようだ。
サイズが分かったので、次はデザイン。私は細い物だと指肉に埋もれてしまいそうなので、太い物がいいのかと思っていた。が、しかし、それは逆で、指が短くて、根っこが太いタイプだと、細くて動きのあるデザインがいいらしい。爪が丸くて小さいので、石は小さめがいいとのこと。ふむふむ、専門家の意見というのは参考になる。選んでくれた指輪はそれ単品で見たら、なんか特徴がなくて凡庸だったが、指にはめると一気にわたしの労働者風の手が、女子の手に変わる。
なんかステキやなと思った。女の子がこういうもんが好きな気持ちがちょっとわかった。それを付けてる自分がかわいい気がするんだろうなあ。かわいい子ならなおさらそうなんだろう。齢33にして初めて知る世界だ。
買ってしまおうかこれを、と一つの指輪を見て思った。プラチナで出来ており、小さなダイヤモンドがつぶつぶと楕円形に固まって配置してあり、地味だが上品で成金くさくない。
しかし、26万円なんである。さすがに衝動買いできる値段ではない。今までの人生で20万円以上するものを買ったのは、数回しかない。バイク4台、クルマ1台、パソコン1台。メカものはスペックでその価値を推し量ることができるが、アクセサリーは1000円でも10万円でも言うたもの勝ちではないか。
値段に対する価値が数値化できないものは買うのが苦手である。CDや本は大好きなアーティストや作者さんに対する感謝の対価と思うことで買えるが、化粧品、ブランド物の財布、バッグ、そしてジュエリー関係はその価値がむっちゃわかりにくい。
私は、ちょっと考えてみます、と言い立ち去ろうとしたら、そのKABA.ちゃんは親切にも、「お安い買い物ではありませんからね。また気が向いたら寄って下さい。」とお店のカードに指輪の名前、サイズ、値段を書いて渡してくれた。ありがとう、最初はネタのつもりだったのが何だか申し訳なかった。
そしてその名刺型カードをしまおうと財布を開いた。ビリビリビリ!静かな店内にマジックテープの音が響く。私の財布はアウトドアショップで吊されているような1980円のマジックテープ式三つ折り財布である。こんなもん持ってるやつが26万円の指輪なんか買うわけないよなって、KABA.ちゃんは思っただろう。
本当にスミマセンでした。指輪の前に財布を買うことも必要かもしれないなあと思った。
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