日々是迷々之記
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朝から洗濯物を干し、いつもより3分だけ遅く家を出た。というのも、今まで7時59分に出勤しても会社のドアが開いてないことが多々あり、ちょうど誰かが出勤したタイミングを狙おうというわけだ。うちの会社は寒風潮風吹きすさぶ、大阪の港湾地帯のがけっぷちにある。ぼろい一軒家を改造した我が社は雨の中通勤しても鍵が閉まっていると、ヘルメットをかぶったまま雨の中突っ立って誰かがくるのを待たなければならない。それが最近苦痛だったのだ。
が、今日は専務が早く来たようで明かりが見えた。が、どっかに行っているようでドアは閉まっている。やられたって感じだ。派遣社員に鍵を渡せないのは分かるけど、待つのも給料のウチと思えということだろうか?
幸い経理のねぇさんがすぐにやってきて鍵を開けてくれた。
私はこのねぇさんがいなかったらとっくにこの会社を辞めていると思う。9時過ぎに社長が出勤してきたが、大風邪をひいているようでとてもしょぼんとしている。イヤミの一つも出ない。が、今日は倉庫で作業をする日だ。これはフォークリフトの作業がいるので社長か専務がやることになっている。社長は肩で息をしつつ、コートも脱がずにストーブの前でちいさく丸くなっている。67歳のおじいさんだ。
そこに登場したのが能天気な専務だ。当然フォークリフトの作業は専務がやるもんだと思っていたら、社長が電話しているすきを狙ったかどうか分からないが、じゃ、行ってくるわとあっさりどこかに出て行ってしまった。
昼になっても専務は戻らず、社長はコートの下にフリースのベストを着込んで倉庫へ行った。私はねぇさんと、ちょっと今日の専務は問題や、というようなことを話した。風邪をひいてぐったりとした初老の父親に、倉庫の作業を任せて自分はどっかにいってしまうなんてと。すると、なんかわかんないんだよね、あの家族。表向きは円満そうだけど、お互い気持ちを見せるようなことはなくて、裏で第三者にぶつくさ言ってばかりいるんだよと、ねぇさんは言った。
一代でこの会社を創った社長。(今は零細企業だが、10年くらいまえまでは従業員が何人もおり、年商○億とかだったようだ。)そして明るく社交的な奥さんと子供達。私にとってはテレビドラマのように平和そうな気がするが…。
家族はいつかこんなふうになってしまうのかもしれない。生まれたときからいくらなんでもお互いをないがしろにはしないだろうし。まぁ、私の育った家族も問題だらけだったもんで、偉そうなことは言えないけれども。
結局社長は、つめたいみぞれが止みだしたころ、倉庫から戻ってくるとねぇさんの入れたココアを飲みながらソファでうとうとしだした。専務が帰ってこないので、無言で空気が重い。嫌な意味での存在感。そして何だか社長が可哀想な気持ちになってきた。
私は結露したガラス戸を丸めた新聞紙で拭いてから、家に帰る準備をした。出しなに、お疲れ様です。社長、お大事にしてください。と一言言うと、社長は目を開けて「ありがとう、ご苦労さん。」と言った。何だか日記で悪口ばかり書いていたのを一瞬で反省してしまった。
きっと社長には社長の世界があって、私の世界とは全然違うのだ。当たり前といえば、当たり前だけど、一瞬でアタマが沸騰してしまうとそういうことは忘れてしまう。30年も生きてもそんなこととも折り合えないのはやっぱりちょっと実力不足だ。
明日は8時何分に会社に到着しよう。
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