日々是迷々之記
目次|前|次
今日は会社で机に向かっていると、いきなり背後から社長に怒鳴られた。逆鱗に触れてしまったようで、わたしは目をそらしながらはぁはぁと浅い息を繰り返した。ひとしきり興奮して言いたいことを言い終わると、奥の部屋に入っていってドアを閉めてしまった。重苦しい沈黙。
私が一体何をしたと思うだろうか?横領、背任、横流し、機密漏洩。それはないにしても、別に仕事中に2ちゃんねるにカキコしていたのがばれたわけではない。(しないけど。)
では何故私は御歳31歳にして怒鳴られてへこんでいるのだろうか?それは私のしていた仕事の内容が社長の今やって欲しいことと合致していなかったからである。ちなみに私は昨日に引き続き、名刺の整理をしていた。それがお気に召さなかったわけだ。
いきなりうちが出した見積書と、最終的な納品書を出されて、「一つの商品当たり、うちはなんぼ儲かってるか、わかるか?アンタ?」「そらわからんやろう。あんたにそれを分かるようにしてもらうために来てもらってるんやで。そんな名刺をパソコンで読んでなんぼになるんや。」「あんたはな、見とったら毎日パソコンばっかりいじりよって、頼りすぎや。もっとアタマを働かせて、体を動かさなあかん。」とまくしたてられた。
「じゃあ、辞めましょか?」と言いたいところだったが、クルマのローンがもう一息なので言わずにおいて、私はひとり殻に閉じこもった。そして、「ああ、これが老人性躁鬱状態かぁ。」とぼんやり思ったのだ。
以前から社長の様子が少し変な気がしていた。経理のねぇさんが社長の机におやつを置くと「要りません!」と言ってはねのける。が、ねぇさんは黙っておやつを戸棚にしまう。そして、「社長なぁ、一人でおるとき、お腹空いたら食べるから入れておくねん。」と言うのだった。それならそれで、「後で食べるから置いておいて。」って言ったら済むやろって私は思ったが、経理のねぇさんによると、「社長は老人性躁鬱のケがあるから、怒られたらハイハイそうですかってスルーしてるねん。」ということらしい。
が、幸いというか、入社して一ヶ月。私は逆鱗に触れずに来れたわけだが、今日は逃げられなかった。最悪である。私が悩みつつ、どうやったら仕入れ金額や売り上げを管理できるか、パソコンを閉じて紙に書きつつ考えていたら奥の部屋からちいさないびきが聞こえてくる。そして数十分後、部屋から出てきて今度は上機嫌で先日の選挙の話を始めた。自分の投票した候補が当選したのがうれしいらしい。
私はさっきの怒りモードとのあまりの落差にどうしていいか分からなかった。まるで気にしていた私がバカに見える。いや本当にバカなのかもしれない。ちょうど5時になったのでわたしはそそくさと家路についた。
一体何だったんだろう。わたしはダンナさんに今日の出来事を報告して、私はどうやって業務に取り組んでいけばいいかと聞いてみた。すると、「社長は完全に病気やから、その場しのぎでハイハイ言っておいたらええんちゃう?もうけがなんぼか知りたかったらお客さんに請求した額と、品物の仕入れを引き算して紙に書いて渡したったらええねん。」と言い切った。
そんな引き算じゃ、輸送コストや手間賃、不良品の差し替えとかそういったものが反映されていないので意味がないというと、「そのおっさんに意味なんかいらんねん。ただ、思うようになっとったらそれでええねん。大体な、自分(なおぞう)の給料でそこまで込み入ったことを正味計算して利益率を出さすようなシステムをつくらせるのは間違いや。大体、会社設立して何十年も経つのに未だに利益率がなんぼかわからん会社なんて終わってるわ。経費もなんも、どんぶり勘定やろ、どうせ。」とのことだった。
確かにどんぶり勘定で経費もなんもまぜこぜで、交通費なんか会社名義のカードで支払った分だけ認められるしくみらしいし。これって変だと私は思うが。
私が入ることによって、仕入れなどの管理システムを作りたいという希望のようだが、「変えたい」と思うのならば、まず自分が「変わらなきゃ。」と思うべきだと感じるのだが、私はおかしいだろうか?
誰かに自分の希望をぶつけて、時給を払えば全てが思い通りになるとでも思っているのだろうか?
一代でこの会社を作り上げたと言う意味で、私は社長を少しは尊敬していたのだが、今日で考えが変わってしまった。今思うのはダンナさんがじじいになっても老人性躁鬱にならないで欲しいということだ。家族にそんなんおったらって考えるとさぶいぼがぞぞぞと立ってくる気がする。
さぁ、明日は社長をスルーしまくるぞ!
|