みかんのつぶつぶ DiaryINDEX|past|will
私が5歳の夏、二人目の妹が生まれた。 父に、赤ちゃんが生まれたから見に行こうと言われて家を出た記憶がある。駅へ向かう途中お祭りがやっていた。ぐるりと見てまわって、お面がたくさん飾ってある店の前で立ち止まった記憶がある。そして私は買ってくれと父にせがんだ。ひみつのアッコちゃんのお面。多分、駄々をこねたのだろう、怒った父の顔を覚えている。 赤ちゃんを見に行くんだというワクワクした気持ちで電車の窓から顔を出していた私の手から、お面がサーっと離れていってしまった。顔を出すため窓のふちを掴んでいた手には、大事にお面のゴムを握っていたのに。 駄々をこねて買ってもらったお面なのに、飛ばしてしまったという申し訳ない気持ちを、5歳になると持つものなんだなと思う。すぐ下の妹を挟んで座っている父に、お面が飛んでっちゃったと小さな声で、恐らく泣きべそをかきながら報告したのだろう。父はギョロッと大きな目で私を見て、バカ野郎めという表情だけで何も言わなかった顔だけがはっきりと記憶にある。 夜店に並んでいるお面を見ると、いつもいつも思い出す苦い出来事になった。 病院へ着いて、硝子越しに生まれたての妹を見た。小さいな、と父が呟いていた。保育器に入れられたいたらしい。未熟児ではないが、小さく生まれてしまったからだと聞いたことがある。 細くて小さくて、父譲りの大きな目をした私の二人目の妹。居間に眠る妹を囲んで近所の人やら大人がたくさんいて、父がいくつかの名前を言っていた。そのなかから私が、この名前がいいと言って決まったんだ。可愛い可愛い名前。発音しやすかったんじゃないかな。 それから三年後、小さい小さい妹は、母から引き離されてしまった。別居していた両親、私と次女は父のもとにいた。3歳になった誕生日に、三女は母から父のもとに連れていく約束をしていたらしい。祖父と母が三女を連れてきて、父と何か話しをしていた。二段ベッドの上で遊んでいた三女は眠ってしまった。そっとそっと見守っていたのに、祖父と母が帰ろうとしたとき、目を覚ましベッドの柵から身を乗り出して泣いた。「ママいかないでー」って。 ベッドから落ちないように行かないでと泣く妹を抱きしめながら、母が顔を歪めて出ていく姿を見送ったんだった。 父があの夏、私たち3人を一緒に引き取ったから、私たちはこうしているんだよ。 彼女の誕生日がくるたびに、あの夏の妹の泣き声と遠い遠い日のあれこれを懐かしく思い出す。
みかん
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