新月の夜に約束しよう
DiaryINDEX|past|will
二十年来の友人であるナガノ君から久しぶりに電話があった。 昨年の秋に山に行ったのが最後だから、もう九カ月も時間が経っている。 何やら用件を切り出しにくそうな物の言い方だったので、私の方から先制攻撃をした。 「悪いニュースなら聞きたくないよ。結婚でもするのか?」 「うん、まあ」 結婚、という単語に夕食を終えて寛いでいた妻と娘も敏感に反応した。 目が合ったので、私が二人に頷いてみせると全てを理解した様子だった。 私と妻とナガノ君の三人の出会いは、ほとんど同時期だ。 私と妻がつきあうようになる前は、妻とナガノ君の方が顔を合わせている時間は長かった。 娘は、それこそ生まれたときから彼に遊んでもらっている。 結婚したら群馬県に行ってしまうとのことだが、高速に乗れば一時間の距離など問題ではない。 ↑投票ボタンです
それは私がマンションを買った時に、彼が引越祝いとしてくれたのだった。 その当時の彼は自分の店を持ちたいと言っていた。 だから私は彼が店を持つか、結婚することが決まった時にその箱を開けると約束したのだ。
これで私の身の回りで独身者はいなくなった。 私は結婚したことで自分の人生がようやく始まったとさえ思っているので、世話焼きじじいよろしく結婚しろと周囲に言ってまわっていたのだった。 あとはナガノ君の結婚相手が、私と彼の遊びを許容してくれるのを祈るのみだ。 午前二時に集合して山を目指す、というのが一般的な遊び方だとは口が裂けても言えはしないから。
|