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| 2002年06月15日(土) |
『マッキンゼー式 世界最強の問題解決テクニック』 |
『マッキンゼー式 世界最強の問題解決テクニック』読了。イーサン・M・ラジエル、ポール・N・フリガ著、嶋本恵美、上浦倫人訳。英知出版。 昨年出版された『マッキンゼー式 世界最強の仕事術』のパート2で、帯では実戦編と謳っている。見返しにはこう書かれている。
前著『マッキンゼー式 世界最強の仕事術』では、実践的な技法を提示するより「ザ・ファーム」の解説が大半を占めていた。しかし、本書は、逆のアプローチで進められている。前著がマッキンゼーのエンゲージメントに主眼を置いていたのに対し、本書は、どうすればマッキンゼーの方法を、あなたのキャリアや組織に応用できるかを論じている。この目的を果たすため、前著を基盤としつつ、新たな見解も提供していく。
マッキンゼー・アンド・カンパニーは世界有数の戦略コンサルティング会社で、様々な人材を輩出していることでも有名な企業のようだ。たとえばIBM会長兼CEOのルイス・ガースナーや日本に関係する人であれば大前研一などもそう。詳しいことはわからないのだけれど、前著と今作を読めば、少なくとも能力の高い人材を集めた、卓越した会社なのだということはわかる。 また、本書の目次の各トピックは以下の通り。
1 問題の構造を把握する 2 分析を計画する 3 データを収集する 4 分析結果を解釈する
5 最終結果をプレゼンテーションする
6 チームをマネジメントする 7 クライアントをマネジメントする 8 あなた自身をマネジメントする
それぞれ1〜4、5、6〜8と分けられており、本書が問題解決のための戦略的モデルと呼んでいる主要なトライアングルのそれぞれの頂点を意味している。 具体的には、分析(1〜4)、プレゼンテーション(5)、マネジメント(6〜8)の3つに分かれている。 まず、ビジネス課題というクライアントからのニーズがあり、その問題点を「分析」し、解釈し、その結果を「プレゼンテーション」することが大切になってくる。同時に、そのすべての過程において「マネジメント(管理)」されていることが必要であり、その結果提示した解決策がクライアントに了承され、実行に移されるということになる。本書では、その問題解決モデルのそれぞれの頂点について、詳しい説明を行っている。そのやり方のようなものを、自分の属する組織、あるいは自分自身に適応させていくことができればいいというのが(それが簡単にいくわけではないにしても)本書の目的になっている。
そこで語られている方法論自体はシンプルなものだ。問題点に対するアプローチの方法からデータ収集の仕方、あるいは面接のテクニック、そしてクライアントへの効果的なプレゼンテーション方法……具体的な考え方やノウハウを説明していくので、随分とわかりやすい。けれども、そういうアプローチをとって行われるべき実際のデータ収集や分析、あるいは資料の準備ということは現実的には煩雑なものであり、書かれているほど簡単にはいかないものなのだろう。ただし、難しいにしても道筋さえわかれば少なくとも軌道をずれることは少なくなるはずで、そういった意味でも参考になる本だとは思う。 組織管理についてなど、参考になる箇所も多数あって、少なくともこの手の本の中では、読み応えがある。
たとえば、こういうところが。
マッキンゼー人は問題のなかの事実を分析するとき、一つずつ分析していって最後に答えを出すより、仮説を証明あるいは反証していくほうがはるかに効率的であることを学ぶ。仮説を立てることは、問題解決のための地図を手にしたようなもので、解答に到達できるように適切な質問や正しい分析へと導いてくれる。よい仮説はさらに、袋小路をいち早く指摘してくれるし、道を間違っても重要な問題点に立ち戻らせてくれるので、時間の節約になる。(47-48ページ)
これは本当にそうだと思う。よくAだからBで、BだからC……というように演繹的アプローチをとってしまいがちではあるのだけれど、最初に仮説を立て、そこからの逆算を行うことによって問題解決がスムーズに行われるというのは重要なことだと思う。僕の働いている会社でもよく現状肯定からは改善は出来ても改革は出来ないというようなことを言っていて、現状否定ということが言われているけれど、それだって同じことだ。最初に目標を設定し、そこから逆算していくことでいま何をするべきなのかが逆に見えていくのだから、その方が手っ取り早い。本書では、当初仮説の有効性のたとえとして、新聞などに載っている迷路は、スタート地点からはじめるよりゴールからスタートを目指した方が早いというようなことを挙げていたけれど……確かに、趣味でやるゲームならそんなふうにせずにスタート地点からやるべきだけれど、ビジネスでスピードや効率がもとめられるのなら、むしろ積極的に逆算すべきなのだと思う。
ここからは、印象に残った箇所を列挙。
マッキンゼー卒業生は、面接によってデータ収集の効率を高めようとしてきた経験を語ってくれ、読者のみなさんの仕事に面接をできるかぎり活用するにはどうすればよいか見極めるのを手伝ってくれた。
・面接を構造化する ・面接は聞くことに徹する ・面接では、こまやかな配慮をする(108ページ)
ナレッジ・マネジメントとは何か。まず、何がナレッジ(知識)ではないかを明らかにしておこう。データと情報は、知識ではない。データは事実であり、発生したことの観測結果であり、数字である。情報は、データを集めたものや、いくらか統合したものだ。知識は、付加価値プロセスにおいて情報と経験と状況が渾然一体となったものである。これはまず、個人の頭のなかで起こり(この段階のものは、「体系化されていない知識」と呼ぶ)、他の人とは討議や文書化を通して共有することができる(その時点で知識は「体系化」される)。ナレッジ・マネジメントは、社内の体系化されていない知識と体系化された知識の価値を、組織が最大限に活用できるように管理する組織的な手法である。これは一般に、体系化された知識がデータベース化または文書化されていることを示している。 (……) ナレッジ・マネジメントとは、既知のものを利用して企業の価値を最大化することだ(120-122ページ)
エレベーター・テスト。言いたいことを短時間で述べなければならないことがある。自分が考えた解決策(あるいは製品でも事業でも)を熟知し、エレベーターに乗っている30秒間に明確かつ正確にクライアントに説明できるようにしよう。こお「エレベーター・テスト」に合格できれば、その解決策を売り込めるだけ自分の仕事を理解しているということだ。(160ページ)
コミュニケーションは、不足より過剰のほうがいい。ローストチキンを作るときには、ぴったりの焼き加減というものがある。火力が強すぎればチキンの表面は黒こげになるし、弱すぎれば生焼けの生で病院行きだ。コミュニケーションにも同じことが言える。私たちはたいていコミュニケーション不足だったり、コミュニケーション過剰だったりするもので、ちょうどいい状態であることはめったにない。だが、チキンのローストと同じで、コミュニケーションも焼き足りないより焼きすぎのほうがずっといいのだ。(206ページ)
わずかな否定的コメントでも、部下の業績に大きな影響をあたえることができる。否定的コメントを一切あたえなければ、成長を促すことはできない(……)。だが、否定的コメントの曲線はすぐに下降し始める。人間が否定的コメントから吸収し実行できる教訓には限りがあり、それを超えれば、あとはやる気を失うばかりになる。一方、肯定的コメントの場合は、曲線はもっとなだらかに上昇する。つまり、部下の業績に影響をおよぼすには、少し多めに肯定的コメントをあたえなければならないのだ。また、肯定的コメントの影響は長つづきする。しかし、肯定的コメントの量が「飽和点」に達したあとは、こうしたコメントは浅薄で信じられないお世辞に聞こえるようになる。(226ページ)
私たちの「マッキンゼー式 問題解決テクニック」のモデルを支える三つの要素、つまり<分析><プレゼンテーション><マネジメント>に共通するエッセンスを何か一つあげるとすれば、それは「真実」だ。(270ページ)
上記に挙げたところをはじめ、参考になる箇所は本当に多かったと思う。たとえば、エレベーター・テストというのはシンプルに結論から問題について把握している核を説明することができる訓練になるだろうし、ナレッジ・マネジメントという流行語でありながらも意外とその解釈が曖昧なものについても、シンプルな定義づけを再確認することができるし。また、コミュニケーションは不足より過剰のほうがいいというのは、まさにその通りだと思うし、そしてそれが難しいのだということは実感することなので、身につまされた。 否定的コメントと肯定的コメントの部分では、これからのスタンスをやはり考えさせられたし。 これから読む方には『マッキンゼー式世界最強の仕事術』の方から読むことをオススメするけれど(個人的にもそちらの方がおもしろかった)、こちらもよかった。
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今日は21時から0時過ぎまで、近くのファミレスで上司と会っていろいろと話をしていた。 僕は子供の頃から比べると、自分が随分と大人しくなったと割合本気で思っているのだけれど、そう言うと結構いつも「おいおい」と驚かれる。いまで「大人しい」とか言っているのがどうやら矛盾しているみたいなのだ。後輩には、いまよりも喋っていたとしたら、いったいどんな子供だったんですかとか言われるし。 でもまあ確かに、男にしてはよく喋る方なのだろうなとは思う。人によってはマシンガントークとも言われるし。マシンガンって…… けれども、仕事柄、話を聞くこともよくするから、話すことも聞くこともバランスよくできればいいなとは思う。
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お知らせ
ここ数日は、天野月子のアルバムをかなりリピートして聴いています。
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