近頃、たんなる気まぐれで、 足だけじゃなくて手にもマニュキュアをしている。
塗っている最中に必ず思い出す女性がいる。
昼下がりの山手線。 ドア脇に佇んでいる。 ハミングのように繰り返される独り言。 60歳前後。 まっピンクの頬、唇、爪。
フリルが惜しみなくあしらわれた、 同じくピンク色のスカートやブラウスにまで、 血しぶきのようにマニキュアが染み付いていた。
きっとピンク色が彼女の生きがいで。 常軌を逸した精神状態でもそれは健在で。
私がもし夫も猫も、 友達もチョコも、 タバコも唄も失ってしまったとしたら。 心を落ち着かせてくれるものはなんだろう。
マニキュアじゃないことだけは、 確かなんだけど。
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