2014年12月26日(金) |
麻黄湯マジック:インフルエンザに罹ってしまった! |
今回はとても長くなるが、自分がインフルエンザに罹ってしまった記録と、抗インフルエンザ薬を使わずに麻黄湯で治療した記録。
麻黄湯【マオウトウ】 構成生薬:麻黄、桂枝、杏仁、甘草
傷寒論を由来とする。麻黄及び桂枝にはいずれも発汗作用があるため、強力に発汗を得ようとするときに組み合わされる。杏仁には鎮咳・去痰作用がある。
以下は添付文書より。 【効能又は効果】
悪寒、発熱、頭痛、腰痛、自然に汗の出ないものの次の諸症: 感冒、インフルエンザ(初期のもの)、関節リウマチ、喘息、乳児の 鼻閉塞、哺乳困難
【用法及び用量】
通常、成人1日7.5gを2 ~ 3回に分割し、食前又は食間に経口投与 する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
【使用上の注意】
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
(1)病後の衰弱期、著しく体力の衰えている患者[副作用があら われやすくなり、その症状が増強されるおそれがある。]
(2)著しく胃腸の虚弱な患者[食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐 等があらわれることがある。]
(3)食欲不振、悪心、嘔吐のある患者[これらの症状が悪化する おそれがある。]
(4)発汗傾向の著しい患者[発汗過多、全身脱力感等があらわれることがある。]
(5)狭心症、心筋梗塞等の循環器系の障害のある患者、又はその 既往歴のある患者
(6)重症高血圧症の患者 (7)高度の腎障害のある患者 (8)排尿障害のある患者 (9)甲状腺機能亢進症の患者
[(5)~(9):これらの疾患及び症状が悪化するおそれがある。]
以下は東洋医学会HPより引用
基礎研究では麻黄に含まれるタンニン(エピカテキン)に塩酸アマンタジン 類似のウイルス不活化作用のあることが明らかにされており、また桂皮のシンナムアルデヒドにはウイルス遺伝子転写後の蛋白合成の阻害による抗ウイルス 作用が明らかにされています。抗インフルエンザ薬とは作用点が異なります。
引用は以上
1日目
この日も朝から仕事。数日前から、明け方に出現する空咳に悩まされていたのだが、この日は咳だけではなく鼻水も認めていた。
明け方の咳はなんだか喘息っぽい咳だなあと一寸うんざりしていたが、我慢できないほどでもなく様子を見ていたのだ。しかし鼻水が出てくると喘息ではない。「風邪、引いたかなあ」ともう一度うんざりする。
がっつりマスクをはめて仕事を開始した。なるだけ患者さんにうつさないようにしないと。
夕方にかけて咳と鼻水はどんどんひどくなっていく。この時点で熱っぽさはなかった。念のために途中で熱をはかったが平熱だった。
寝る前には倦怠感が強くなってきていた。ちょっと熱っぽさを感じて再度熱を測ると、37℃台の微熱だった。しかしまあ寝たら治るやろうといつものように晩酌して寝た。
2日目
起きたら身体中が痛い。寒気が強くて身体中ががちがち震える。倦怠感というよりは眩暈がする感じ。熱を測ると39℃を超えていた。咳鼻水などの気道症状、悪寒と筋痛、これってインフルエンザやんけ。まじっすか。ちゃんとワクチン打ったのになあ、でも今年は、きちんとワクチン打った人が罹るパターンがやたら多いのだ。くそう、今年のワクチンはハズレやったな、などと悪態をつく。
この日は休日だったのでしばらく布団の中でゴロゴロしていたが、意を決して病院に行くことにした。しかしあまり早く行きすぎると、インフルエンザに罹っていても検査で陰性になってしまう「偽陰性」になってしまう。そうなると、翌日に再検査となるのでそれだけは避けたい。
というわけで、昼過ぎに病院に行くことにした。しかし本当に体が動かない。食欲も全く起きず、かと言って脱水が一番怖いので、てめえが株主になっている大塚から送られてきたポカリスエットを枕元に置いて水分だけは摂るようにした。
しかし、どうやって病院に行こうか…。平日なら歩いて行ける最寄の病院に行くが、この日は休日なので休診である。救急病院はどこもそれなりに離れている。てめえの勤務先も救急受け入れはしているのでそれなら勝手知ったてめえの病院が良い。
しかし、どうやって病院に行こうか。歩いて行くのはほぼ無理な距離だし、かと言って公共交通機関を使うのはインフルエンザの可能性が極めて高い今ほぼバイオテロである。タクシーも選択肢の一つだが、あの密閉空間では運転手に感染させるのはほぼ間違いない。
うんうん唸っていた午後12時前。一瞬だけ、ふと体が軽くなった。もしや熱が引いたのか、と思い再度体温を測ると39.6℃と本日最高値をあっさりと更新していた。しかし体は不思議なほどに軽い。今だ、この瞬間だ! と思ったてめえは急いで支度を整えて愛用のバイクにまたがった。
絶対に間違いを起こしてはいけないので、ありえないくらいの安全運転で病院に向かう。冬の冷たい風が火照った体に妙に心地良い。そろりそろりとバイクを運転して、何事もなく病院に到着した。
バイクを置いて受付に向かう足取りも異様に軽い。まるで病原菌が消え去ってしまったかのようだ。なんだろうこれは。実はインフルエンザでもなんでもなかったというオチは勘弁な。
しかしやっぱり自分が長年働いている病院だけあって、ホームグラウンドにいるという安心感が押し寄せてくる。受付の休日アルバイトのおじさまも、救急のナースもみんなよく知った人ばかり。さくっと受付を済ませてバイタル測定を行った。
血圧は140くらい。普段のてめえの血圧よりは高いが体調が悪いからだろう。極端に高かったり低かったりすると問題だが、まあこんなものか。
脈拍は110くらい。ちょっと早めだが、人間は体温が1℃上昇するたびに脈拍数が約10上昇する。体温が39℃台であれば普段よりも3℃上昇しているわけで、脈拍は約30上昇していると考えられる。とすると、平熱換算するとだいたい80くらいなので、まあこれもそんなものか。
体温は38.7℃だった。冬の風に当てられて少し下がったか。でもやっぱり発熱はしている。
というわけで、検査結果が出るまで感染症患者を隔離する部屋に案内された。というより、自分で向かった。そして自分でインフルエンザ検査キットを鼻の穴に突っ込んで結果を待つ。
果たして結果は陽性だった。
「どうさせていただきましょ?」と、初めて当番の医師が登場した。本来であれば問診や診察を終えてからの検査になるのだが、身内同士なのでよほどのことがない限り問診も診察もせず、検査結果が出てからの相談となる。
この場合も、医師同士の場合は、基本的に相手の希望する通りに処方を出す。これはてめえの病院に限らず日本中どこでもそうなのではないだろうか。少なくとも京都の他の病院でもそうだし、沖縄でもそうだった。外国の場合は知らない。
「麻黄湯をください」とてめえは言った。そう、インフルエンザに自分が罹った時には、麻黄湯のみで治療してみようとずっと考えていた。以前にもどこかで書いたがタミフルやリレンザなどのノイラミダーゼ阻害薬は全く使う気がしない。
そんなわけで麻黄湯をいただいて、またそろりそろりとバイクを運転し帰宅した。「麻黄湯の効果、また教えてくださいね」と言った当番の医師は、おそらく麻黄湯を処方したことがないのだろう。
なんとか無事に帰宅したてめえは、さっそく麻黄湯を二包、アツアツの熱湯に溶いて服用した。時間は午後1時だった。
ちなみに麻黄湯の、保険収載上の使用法は「一日に三包を毎食間に服用」となっている。ところが、実際の漢方ではそういう服用の仕方はしない。とにかく大量の汗が出て解熱するまで、2−3時間毎に服用するのだ。このやり方だと一日三包どころではないし、そもそも保険を通らない。ので、処方箋状は「一日に三包を毎食間に服用」と書くしかない。てめえのような飲み方をするのは自己責任である。
この場合副作用として気をつけなければいけないのは、麻黄湯に含まれる「麻黄」の作用である。よく知られているように、麻黄には成分として「エフェドリン」が含まれている。これは強心作用を持つため、心臓の弱い人や血圧の高い人はそもそも服用を避けたほうが良い。もう一つ忘れてはならない作用としては、胃を荒らすことがあるということ。だから、胃の弱い人は、麻黄湯を飲む際には胃藥も併用した方が良いかもしれない。
ちょっと漢方マニアックな話になってしまうが、風邪薬としてあまりにも有名な葛根湯も、実は構成生薬として「麻黄」を含む。しかしあれだけ老若男女が市販品を含めてガンガン使っているにもかかわらず、胃を痛めるという話をほとんど聞かないのは、実は葛根湯の中に胃藥としての生薬(生姜+大棗+甘草)が含まれているからである。まあ、なかなか良く考えられているものだと感心する。
「麻黄湯」にそう言った配慮が全くされていないのは、この薬自体が超短期決戦のための薬だということを示しているのではないだろうか。そう、この漢方薬は最強の有効成分だけをシンプルに配合してあるのだ。
逆に言うと、体力のない人にはお勧めできない薬だということになる。
そんなわけで効果が早く出るために、最初だけ倍量で内服する。そのまま布団にくるまった。バイクの運転で神経を使ったせいか、どっと疲れが出てあっという間に眠ってしまった。
15時半頃に目が覚める。体熱感は強く、汗は全く出ていない。まだ麻黄湯の効果は出ていない。というわけで、さらに追加で一包を熱湯で溶いて服用した。寒気が強く、身体中が痛い。「これほどの痛みがあるのか!」というくらい痛い。そうか、インフルエンザの痛みはこんなに強いのかと実感する。インフルエンザって高熱を出す病気だと思っていたけど、全身の筋痛を来す病気だったんだなと実感する。発熱はおそらく二の次だ。そういえば、全身の痛みだけで熱もなく、念のために検査したらインフルエンザ陽性だった患者さんもいたわ。
今度は身体中の痛みで眠れない。スマホで時間でも潰そうかと思うが文字が全く頭に入らない。諦めて音楽を流すことにした。これで少しは気が紛れる。
気がつくと眠っていたようだ。外も真っ暗になっていた。時計を見ると18時だった。まだ麻黄湯の効果は出ていないようだ。
さらに一包を追加して服用する。身体中に熱が篭っているのがわかる。身体中の痛みもますます強い。そろそろ効いてくれよ、とてめえは願った。
18時半頃、いきなり身体中が燃え上がるように熱くなった。ものすごい熱で、頭も朦朧としてまるで夢の中にいるようで、目を開けると世の中が歪んで見える。しかし今までの全身の痛みは少し軽くなったような気がする。今まで全く経験した事のない感覚だ。麻薬でハイになった時はこんな感覚なんだろうか?
とにかくすごい体験で、体の中から燃え上がるような感覚。まるで全身の免疫系がファイアーして、一気にインフルエンザを燃やし尽くそうとしているような感覚。
西洋薬だったら、症状を抑えようとする「陰性の作用」が主なのだろうと思う。病状が陽なのであれば、それを叩く、逆方向に持って行こうとする。
しかしこの麻黄湯は違う。「陽」を極限まで燃え上がらせた上で、鎮火させる如く作用する。これは体力のある人には可能な治療法だが、高齢者や免疫力の落ちた方などは下手するとそのまま持って行かれるのではないか。
などと考えていると、19時頃に一気に発汗した。身体中の熱が汗と共にあらゆる毛穴から抜けていくような感覚に襲われる。ぐっしょりと発汗したあと、一気に体が軽くなった。おお、これが麻黄湯マジックか。
それでも完全に解熱したわけではなく、まだ37-38℃台の発熱が続く。20時半ごろに胃に違和感を感じたのはおそらく麻黄の副作用だろう。手持ちの胃薬をこの時点で内服した。
かなり体は軽くなったがまだ38℃台の熱はあったため、21時前に麻黄湯をさらに一包服用した。これで計五包。だいぶ体が軽くなったので、これを最後にもう寝てしまうことにした。
続く。
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