解放区

2011年11月22日(火) 死亡診断書と医師法20条について

てめえの担当ではなかったが、当院で往診管理していた患者さんが自宅で亡くなられた時のこと。最後の往診からは24時間以内ではなく数日経っていたと記憶している。

なんの病気を患っておられたのかは忘れてしまったが、ご本人および家族により「急変時に心肺蘇生を行わない」という意志を持っておられた。のだが、布団の中で冷たくなっていた患者を見て、動転した家族は119に電話し救急車を呼んでしまった。

到着した救急隊は職務として心肺蘇生を開始した。そしてこれまた何の手違いか、当院とは異なる病院に搬送した。運ばれた病院としてはその患者の情報は全くなく、心肺蘇生を救急隊から引き継いで継続したが、甲斐なく蘇生されず、そのまま運び込まれた病院で死亡確認された。

その病院にしてみれば、今までの経過もわからなく「異状死」の可能性があるということで、所轄の警察署に届け出た。警察は家族から事情を聴き、自宅の捜索も行い、ご本人の検案もおこなったが、事件性もなく、ご本人に外傷もなく、もともとの原疾患による死亡と考えられた。

その日その時間にたまたま救急当番をしていたてめえに、警察署から電話が入った。上記の経過を説明されたあと、担当の刑事は言った。
「というわけで、かかりつけで診ていただいていた貴院で死亡診断書を書くことはできないでしょうか。経過からも事件性はなさそうですし、ご家族も今まで診ていただいていた貴院での診断書を希望されていますし、もしできないのであれば司法解剖となります。それもどうかと考えまして。」

正直そのようなケースを経験したことがなかったので、答えに戸惑った。もちろん、拒否することもできるし、てめえとしてはそれが一番簡単だ。当院で診断書を書くとすれば、医師法20条との兼ね合いもある。また、万が一後から事件性が疑われた場合全責任を負う必要がある。

てめえは、たまたま救急当番となっていただけで担当医ではないので即答できないこと、また、医師法との兼ね合いでそんなことが可能なのかどうか知らないと説明し、担当医もしくは病院の管理者と相談してから再度連絡しますと刑事に説明し、電話を切った。

たまたま病院内に担当医がいたので上記の経緯を説明したところ「原疾患による死亡でしょう。これまでうちで診てきたのだから、こちらで死亡診断書を書いていいのでは。医師法についてはよくわからんのでいちおう管理者とも相談してみてください」とのことだった。

そのとき院長は不在だったので、副院長に相談した。いろいろ話はしたが「・・・これは、うちで書かなあかんやろう」という結論になった。この間いろんな医師と相談しているうちに、てめえの考えは「引き受けないほうがいいのではないか、最後の往診からも24時間以上たっており、他院に運び込まれたのは不幸な出来事だったが手続きとしては警察での死体検案および司法解剖が間違いがないだろうと考えるようになっていた。「後は私が責任とります」と副院長が言ったので、その後の対応はお任せすることとした。

副院長から警察に連絡され、司法解剖は免れることとなったが、今度は運び込まれた病院が怒った。てめえの病院で死亡診断書を書くのは手続き上おかしいし、そんなことは許されない。ので、ご遺体の引き渡しも行わないとする、かなり強硬なお怒りだった。

その後どういう話になったのかはわからんが、ご遺体はいったん警察が引き取って自宅に運び、そこに副院長が出向いて死亡確認を行って、死亡診断書を書くということになった。前述の病院からはその後あらためて抗議があったらしい。




医師法第二十条
医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。




上記については、最後の診察から24時間以内であれば死亡診断書が作成できるが、24時間を超えた場合については死体検案書となるというふうに学校で教わることがほとんどだと思われるし、そう解釈している人が多いが、よく読むと「24時間以内であれば、死亡確認せずに死亡診断書を作成できる」と言っているにすぎない。誤解が多かったために昭和24年に医務局長名で通知が出ているが、いまだに徹底されていないと思われる。

運び込まれた病院は、この条文を盾にかなり抗議されていたが、実は副院長があらためて診察して死亡診断書を作成しており、なんの問題もなかったのだ。てめえもあらためて勉強しなおすまで知らなかった。

つづく。


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