2003年8月、沖縄。
朝早くに着いた那覇新港から荷物を引っ提げその足で向かったのは本島の最南端、「ひめゆりの塔」の近くの戦闘跡だった。祈念館と名付けられたその建物は、まさに海に向かって静かに佇んでいた。
京都から持って行ったバイクを駐車場に停め、一人で歩いた。空はどこまでも青く、澄み渡っていた。
日差しが皮膚を刺す。暑いより痛い。さらに歩くと、道端に搾ったばかりのジュースを売る人がいた。
歩く。歩くと、海が見えた。海は透きとおっているより青かった。どこまでも青かった。ただ日差しがぎりぎりとてめえの皮膚を焼いた。どこかで子供の笑う声が聞こえた。墓標に向かって静かに祈っている人たちがいた。美しく刈り込まれた芝生は限りない太陽の陽を浴びて真っ直ぐに伸びていた。
そこは有り得ないほど平和だった。あの夏、この場所で、多くの人間が自ら命を絶ち、また異国民に命を絶たれた場所とは思えないくらい、空は澄み渡り、海は青かった。静かな小波が聴こえた。
有り得ないほど平和だった。
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