高校生のときに、とあるイベントのスタッフとして参加する機会があった。で、自分は何でか知らんがそこのある部署の責任者になった。自分は2年生で、自分の下で働くスタッフには3年生も混じっていたが、楽しく仕事させていただいた。
そのときのスタッフに、自分よりひとつ年上の3年生の女性がいた。おしゃべりばかりに興じるほかの連中とは違い、彼女はいつも真っ先にやってきては、黙々と、しかし楽しそうに仕事をしていた。休憩になると冗談を言っては笑い、人の冗談にもよく笑った。差し入れのおやつもパクパクと食べていた。屈託のない女性だった。友人も多く、みんなに好かれていた。
ちっこい体に真っ赤な髪にやたらと長い制服のスカートをいつもはいていた。その年のスタッフの中では唯一3年間スタッフをしてきただけあって、仕事にも慣れていたし、手際もよかった。個人的に少し話をする機会があったが、その経てきた道はまったく平坦ではなく、自分ならとっくに世を儚んで気が狂っている人生を歩んできているかのようにもみえたのに、彼女には卑屈さがなかった。過去についての話も、自分はたった一度しか聞いたことはない。
高校を卒業したら、一年だけ働いて結婚するのだ、と彼女は自分に言った。多くの人がそのことを知っていた。相手はもう社会人で、とっても優しい人だ、と彼女はいつも言った。仕事を終えたらいつも彼女の家に来て、彼女が帰る頃には毎日駅まで迎えにきてくれるらしい。でも、結婚したらたぶん家庭に入ることになると思う、相手の家の人は古い考えの人だから。だから、一年だけでも働かせてほしい、とお願いしたのだ、と彼女は言った。和装が好きなので、その勉強もしたいし、と彼女は言った。
いつもにこにこと笑っているが、男兄弟に囲まれて育ったせいか気が強く、いつもはっきりとものを言った。彼女の意見はまったく「考えた末に導き出されたもの」というよりは、ほとんど「直感で」の意見だったが、いつも彼女はいいことを言った。直感でいいことを言う彼女を、自分は少し尊敬した。
なんだか自分と対極のものを見たような気がした。
そんな話をぼんやりと聞いていた高校2年生の頃だった。季節はもう春から夏に入ろうとしていた。
それからいろいろと時間は流れて、それから6年後の春に、その女性は自分の妻になった。
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