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2004年04月04日(日) |
Factory41(樺地・跡部/Ωペーパー再録) |
『只、眠れる魂』
彼は時々信じられないものを目にする。
それはたとえばこの人と歩く夕暮れ時。空にも道にも満ちる赤がこの人を染める瞬間だ。 どうかしたのか、樺地? 彼はなんでもないというような意味の事を呟き、首を振る。 陽の光を宿した人に、胸を突くほどの美しさが現れている。いつも一緒にいて、いつも目にしている人なのに、これはどういうことだろう。 ほら、行くぞ。早く その人の腕が立ち止まる彼を捕えた時、彼の目を眩ましていた何かが四散する。 どうしたんだ、お前 首を傾げる人に、彼はなんでもないとまた言う。 なんでもない、なんでもない、お前はいつだってなんでもないんだな あの人はからかうように言い、背を向けて歩き出す。 なんでもない、ことはない。彼を脅かし、彼を侵略し、彼を占拠しようとする、これはなんだろう。身体の血が勢いよく循環し、胸がなり、胸の奥がずきずきと痛くなる。これはなんだろう。形もなく目にも見えない、なのに熱を持ち、そこにあることは分かる。これはなんだろう。 跡部さんなら分かるかもしれない。跡部さんは何でも知ってるから でも彼の口にその問いが乗せられる事はない。
気がついている。胸の内にあるそれが、暴れ、跳ねあがる時に、目の前にいるのはいつもこの人だ。
下級生になめられんなよ。堂々としろ。お前も部を支えてゆく、最上級生なんだから しっかり頼むぞとこれまでに何度となく向けられた言葉に、彼は頭を揺らして答える。 本当に、大丈夫か、お前 少し大げさに呆れてみせるような笑いを浮かべて、こちらを見上げる。 まぁ、それでもひとりでなんとかしないとな、樺地。 もう、俺いなくなるんだからと呟く人の声は遠く、彼はうまく返事ができない。
いつものようにそこで別れる。 何、突っ立ってるんだ、さっさと帰れよ 歩いてゆくあの人を見ていたら、振り返って、そう言われた。彼はひとり、家までの道を歩き始める。 明日で跡部さんと一緒に帰るのも最後だ。そう思うと、彼の身体の中で何かが大きく波うち、心が砕けそうになる。会えなくなるわけじゃない。なのに何だろう、これは。 何もない空っぽの空間に、たったひとりで閉じ込められ、置き去りにされたような気持ちは。
それでもまだ彼には分からない。 ただ、日一日と跡部さんのことを心に浮かべる時間が長くなってゆくのはなぜなのかと思い、こんなことでは、明日、跡部さんが卒業してしまった後、どうなるのかと困惑する。
彼に分かる事は、今はそれだけ。
★3/20全国大会Ωで配ったペーパーの再録★
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