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樋川春樹

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2005年07月15日(金)
書いてたとこまで公開します。その1

 約一年前に書き上げてPSO読み物コーナーで現在も公開中の『とっておきスイーツ。』、削ってしまった部分を捨てるには忍びなくてこの日記の6月8日に掲載しましたが、実のところあれにはまだ結構長い続きがありました。
 やっぱり捨てるのはもったいないのでここに載せておきます。エピソードとしては未完です。続きを書いて仕上げるかどうかはわかりません。それでも良いという方は、是非読んで行って下さいな〜。

+++

「わ、私は、別にかばってるつもりじゃ…」
「いいや、お前の優しさはよくわかっている。そこがお前のいいところだが…それは同時に欠点でもある。人間は優しいだけでは生きてゆけないんだ、RyuKa。ときには心を鬼にして誰かを切り捨てることもせねばならんのだ…ッ!」
「切り捨てたいのかよKUROGANEを」
「いっそ切り捨てれば食の常識を破壊されずに平凡な毎日を送れるようになるのにとか思わないのか」
「何でアイツはあんな面妖な取り合わせばっかり次から次へと思いつけるんだろうな。KUROGANEって食べられるだけじゃなくて味覚もちゃんとあるんだろ?」
「ああ、そのはずだ」
 妹から手を離して着席しなおして、CAGEに答えてからHyuGaは深く重いため息をついた。
「それが証拠に他の料理はまともに作れるじゃないか」
「やあやあ諸君。一体どうしたんだい、そんな世界の終わりを明日に控えたような辛気臭いカオをして」
 突然わざとらしいくらいに明るい声が店内に響いた。
 うどんのつゆに漂うちょこ焼きの破片を箸で集めてマグに与えているHARUKIを除く四人が一斉に振り返る。
 全員の予想通り、開け放したドアのそばにHALKA が立っていた。一度目にすればやけに印象に残る真っ赤な衣装とFOnewmが好んでかぶる奇抜な帽子。常のごとく目の前にいる人間どころか世界中のあらゆるものを見下し嘲笑しているような軽薄な笑みを浮かべると、HALKA は堂々とした足どりでカウンターに歩み寄って来る。
 CAGEとHyuGaがHALKA から露骨に顔をそむける。
「こんばんは、HALKA さん」
 RyuKaが着席したまま頭を下げると、KUONも無言でそれに倣った。
「はい、こんばんは。相変わらずRyuKaちゃんは礼儀正しくていい子だね」
「こんな奴に挨拶することないぞ、RyuKa」
 にこにこと妹に話しかけるHALKA をHyuGaが邪険に追い払おうとする。
「どこぞの根性がねじくれ曲がった人格破綻のお兄さんとは大違いだ」
「どっちの人格が破綻してるんだよ」
「RyuKaちゃんはこんな歪んだ人間になっちゃ駄目だよ? こんなお兄さんでも反面教師としては役に立つんだからこれからも大事にしてあげなくちゃだね」
「何しに来たんだ、お前。用がないなら帰れ!」
 横合いからCAGEも口を挟む。
 一瞬、HALKA は薄っぺらい笑顔のまま表情を止めた。頬に唇に笑いを貼りつけたまま、HyuGaとCAGEに視線を走らせる。右と左で色が違う特徴的なその瞳。瞳の奥に閃いた不穏な色。見られた途端背中にぞくりと寒気が走り、二人は呑まれたように口を閉ざす。
 へらっ、とHALKA が再び笑み崩れた。
「いやだなあ、僕が用もないのにこんな辺鄙で薄汚い喫茶店になんかわざわざ足を運ぶワケがないじゃないか。用ならあるとも。そう、僕はこの店の御主人に招待メールを受け取ったからここまで来たんだから。このうえもなくれっきとしたお客様なんだよ? 大事な大事なお客様をよってたかって追い返したなんてことになったら、君達、KUROGANE君に怒られるんじゃないかな? きっとすごく怒られると思うよ? なあに、僕の大事な友人達が互いに傷つけあうのを見るのは僕としても心苦しい。大丈夫、僕はこんなことで追い返されたりなんかしないよ。それどころか寛大な心で君達の暴言を許そうじゃないか。いやいや、実際、僕は海よりもなお広い心の持ち主だからさ。君達を許すことぐらい何でもないさ」
「あ、あの、HALKA さんも試食に協力してるんですか?」
 放って置いたら来世まで喋り続けるんじゃないかと本気で思えるぐらい滔々とまくしたてるHALKA の台詞が一秒の何分の一か途切れるその隙をついて、RyuKaが話しかける。
「ああ、もちろん。僕は見かけ通りとても友達を大事にするタイプだから」
 誰が友達を大事にしとるか。HyuGaが唇を動かさずに吐き捨てる。声には出していないのだから誰にも聞こえるハズはないのに、まるでそれを耳聡く聞きつけたかのようなタイミングで背後に近づいたHALKA が馴れ馴れしくHyuGaの肩に腕を回した。
「ほら、君のお兄さんともこーんなに仲良しさんだしね?」
「オレとお前が仲良しだった期間など過去に一秒たりとて存在せんぞ…」
「僕と違って心が狭いなぁ、君は。そんなだからじきに三十なのに彼女の一人も出来ないんだよ」
「三十言うな…!」
「あ。いらっしゃーい、来てくれたんでっか、HALKA さん」
 キッチンから洗いものを終えたKUROGANEが出て来た。
「やあ、ご招待ありがとう。今日は何を食べさせてくれるのかな? 先日いただいた山かけヨーグルトはわりといいセンいってたよ」
 山かけヨーグルト…!
 今の今まで忘れたことにして強引に封印していた忌まわしい記憶を引きずり出されてがたんと身を引く一同。
「いや〜、そう言うてくれんのはHALKA さんだけですわ」
 照れるKUROGANE。タチの悪いお世辞だ気づけとツッコもうとして、コイツのことだからあるいは本気で言っているのかもしれんとHyuGaは出かかった台詞を慌てて飲み込む。
「今日のレシピなんやけど…実はもうケージ達から全然駄目や言われましてなぁ」
「おや。そうなのかい?」
「アカンと断言されたモンを引き続きお客サンに出すのもどないかと思うし…」
「ふむ。いやいやKUROGANE君、そう即座に結論を下すものでもないよ。駄目な部分があるのなら改良すればいいのさ。既に作り上げたもの全部を捨てることはない」
 あの『ちょこ焼きうどん』に改良の余地などどこにもないような気がしたが、HyuGaは今度も口を出さなかった。
「改良言うてもなぁ。ワシなりの試行錯誤は重ねた後なんでっけど」
「ふむ、それじゃあひとつ僕が見てあげようじゃないか。第三者の意見を取り入れることで開ける道もあるだろう。いや、いくら親切で面倒見が良いことに定評のある僕だっていつもいつもそこまで君達に関わり合っていられるほど暇じゃあないんだけど…うん、そうだ、今日は特別だよ。どうせ今日はこの後に大した予定は入ってないからここにいくら長居したって問題はないしね。そうだ、そうしよう。そういうことでKUROGANE君、早速僕を厨房に案内してくれたまえよ」
 HALKA は一秒も途切れることなく喋り続けながら、KUROGANEの背を押すようにしてキッチンに入って行ってしまった。
 二人の姿が視界から消えると同時に、ぐったりとカウンターにもたれかかるCAGEとHyuGa。
「お…おいしくなるのかな、あのおうどん」
 RyuKaが呟く。
「アイツは一人で来たのか?」
 RyuKaよりもまだ小さな声でHARUKIが誰にともなく尋ねかける。
「…今日はHomu_Raだ」
 HARUKIの方は見ないまま、CAGEが短く応じた。個人を特定出来るほどはっきりとしたものではなかったが、店の外に気配がある。HALKA はほとんどの場合Himu_RoとHomu_Raの両方あるいは片方を護衛兼雑用係として連れ歩いていて、一人で出歩くような真似は滅多にしない。二人のHUcastのうち、戸外で待機していながら屋内の人間に存在を感知されるような杜撰な潜み方をするのはHomu_Raに決まっている。Himu_Roであれば背後数センチのところまで迫ったとしてもほんのわずかな違和感さえ覚えさせないくらい巧妙に気配を消せるはずだ。
「…まずかったのか、あのうどん」
 自分の問いに対する答えは無視して、HARUKIはRyuKaに真顔で話しかけた。
「まずかったって言うか…やっぱヘンな味、だと思うけど…」
 真剣に見つめられて自信をなくしたようにRyuKaは語尾を途切れさせる。
「そうか」
 RyuKaの曖昧な反応には構わずにHARUKIは軽くうなずき、それきり完全に興味をなくしたように自分の手元に視線を戻した。
 不自然に終了した会話に何となく居心地の悪さのようなものを感じつつも、RyuKaはそっとHARUKIの横顔を観察した。カウンターに載せた生マグを見下ろして何事か話しかけているHARUKI。目の前の生マグ以外のものからは完全に関心を失ってしまっているようなのに安心して、ついついじっと見つめてしまう。
 ホントにHARUKIさんって、HARUKIさんにそっくりだなあ。
 RyuKaは心の底から感心してしまった。FOmar・HARUKIの双子のきょうだいだというFOmarl・HARUKIを思い浮かべる。
 男女の違いがあるから全体で見たときの相違はもちろんある。黒ぼんぼりのFOmarl・HARUKIの方がやはりFOmar・HARUKIよりも幾分細っこくて柔らかな曲線で構成される体つきをしている。しかし、その顔だけを比較してみると−もう片方は今この場にいないから自分の記憶の中の映像と照合するしかないのだが−ほんの小さな差異さえも見出すことが出来ない。
 ふたりのHARUKIは、それなりに整ってはいるのだがこれと言って個性のない容姿の持ち主だ。漆黒の髪と瞳。色について説明してしまえば後は取り立てて抜き出して並べる要素がない。背は高い方だろうがそれだけで特徴になるほど上背があるワケではない。痩せている方だろうがそれもやはり第一印象でそうと気づくほどの痩身でもなく、誰かと並んでいるところを何度か目にして、そう言えば結構痩せている方かもなと思い至る程度でしかない。
 HyuGaとRyuKaは兄妹だが、十歳以上年が離れている。年の近いきょうだいを持ったことのないRyuKaには、ふたごの兄なり姉なりがいるというのがどんな感じなのか、うまく想像出来ない。楽しいのか、煩わしいのか。互いの存在をどのように認識しているのか。直接尋ねてみたい気もするけれど、どちらのHARUKIもRyuKaには少しだけ、怖い。原因はよくわからない。
「おまたせおまたせ。さあさあできたよ、改良版『ちょこ焼きうどん』だ。気合い入れてご賞味してくれたまえ」
 躁病的な明るさを感じさせる声と奇妙な言い回しがRyuKaの思考を遮った。満面の笑顔でキッチンから出て来るHALKA の後に、どんぶりばちを載せたトレイを持ったKUROGANEが続く。
「何をどう改良したってんだよ…」
「それは食べてのお楽しみだよCAGE君!」
「ま、また食うのか? アレを?」
「おや? またってコトはないだろう。君に僕の手料理を食べさせるのは初めての出来事だったハズだけれど? いやまさかこの僕の記憶が誤ってるなんてことは億に一つもないだろうからね。まあ安心したまえよ、確かに先程の料理はすこぅしおかしな味がしたかもしれない! 僕は人間が出来ているから大変美味しくいただいたけれども凡人で非力な諸君らには理解出来ない高尚な味だったかもしれない。それは認めるとも、僕だって温かい人の血が流れてるんだから、多分」
 多分。コイツが言うと冗談に聞こえない。CAGEは背筋が冷えるのを覚える。
「でも今つくってきたコイツは別物だよ。そう、完成度が全く違うのさ。きっと気に入ってもらえると思うな、僕は。とにかく出来立ての熱いところを食べてくれたまえよ。なあに、そんな青ざめた顔を向けて来なくたって毒なんか入れてやしないよ」
 トレイからどんぶりばちを取り上げて、HALKA は上機嫌で手ずからCAGE達の前に料理を並べた。
 並べられたものの箸を取り上げる気にもなれずただ憮然とはちのふたを見下ろしてしまうCAGEとHyuGa。RyuKaとHARUKIはとにかくふたを取る。HARUKIは二杯目のうどんも食べるつもりだった。RyuKaは『ちょこ焼きうどん』がHALKA の手によってどのような変貌を遂げたのか一刻も早く確認したかった。
「あ…」
 ふたを持ったままRyuKaの手が止まる。
 ちょこ焼きうどんに新たな具が追加されていたのだ。
 はちの全面を覆い隠すほどたっぷりとふりかけられた、かつおぶし。湯気でしんなりしている。いいにおいだ。
「え、えーっと…」
 困惑する。助けを求めるように視線を巡らせた先では、HARUKIが平然とした表情かつ迷いのない動作でうどんをかき混ぜていた。かつおぶしを全域に行き渡らせる。その他の具もつゆの中にまんべんなく混じり込んでゆく。あれが正しい食べ方なのかと問われればすぐに首を縦には振りたくないが、間違っているのかと言われれば間違っていないような気もしないでもないと非常に消極的にあのやり方を支持したいようなしたくないような。…やっぱり正しいのかな? RyuKaの意見はどんどんあやふやになってゆく。
「おや。どうしたんだい、HyuGaにCAGE君。遠慮なんかいらないんだよ? 思うさま食べなきゃ。せっかく僕が今まで君達が食べたこともないようなおいしい料理を用意してあげたんだから」
 にこやかにそう言うHALKA を、HyuGaとCAGEが無言で睨む。
「ふふ、そんなおっかないカオで見ないでくれたまえよ。そうだな、君達がどうしても食べたくない…どーしても、絶対に、食べたくないって言うんなら、無理強いはしないさ。僕はそんなにコドモじゃないしひとつのものごとにそこまでこだわるほど暇でもない。ま、でも、もし君達が僕がわざわざ直々に君達のために用意してあげたそのうどんを食べないって言い張るのであれば…まあ、ほんのちょっとだけ、困ったことになるかもしれないしならないかもしれないし、まあその辺は君達の自由意志だから」
 絶句している二人をちらりと見下ろす。色違いの瞳をすいと細めて、HALKA はいかにも愉快そうに続ける。
「そうそう、Himu_Roの奴ね。最近新しいアギトを手に入れたんだよね。991年キコク作、まあ贋作だから大したモンじゃないけど、それでもやっぱり新しい刀を手に入れた以上は試し斬りしてみたいらしくてねぇ………」
 にこり。
 一片の敵意も悪意も感じさせない無邪気な笑顔。おそらく広い世界でもただ一人HALKA だけが見せられる…残忍で獰猛な、完璧な愛想笑い。そして話題を切り替える。
「ところで、Himu_Roってさ、感情プログラムがアレだからちょっとやそっとのことじゃキレたりしないんだけどさ。最近HIKARUちゃんのコトとなると見境なくすんだよね、ホント。こないだなんか………ああ、そっか、アレはHimu_Roがやったんじゃないってコトにしてやったんだっけ。まあ、死者含む重傷者五人も出たんじゃねえ。ちょっと公には語れないって言うかさぁ」
 その台詞も唐突に区切って…HALKA はCAGEとHyuGaに向かい小首を傾げてみせた。
「で、食べる? 食べない?」
 …HALKA は何一つ具体的な脅迫を行わなかったが、二人はそれ以上ものも言わずに箸を取り上げた。

 覚悟を決めて改良版ちょこ焼きうどんに立ち向かう。どのようなやり方で食べるべきかなんてことはもちろんわからなかったので何となく相棒のやり方を真似ることにした。どうせいずれはたこ焼きの生地がうどんのつゆに溶け出して、そのうち全てが分け難く混ざり合ってしまうのだから、今混ぜるも後で混ざるも同じだ。
 そうしておいてからうどんを何本か箸で持ち上げて…一秒、迷ったが、どうしようもないので口に入れる。
「………、うッ…!」
 衝撃のあまり口から出かけた台詞と一緒に慌ててうどんを飲み込んでしまう。奇妙な声を発したCAGEを視線だけで見やって、HALKA が得意そうに微笑ってみせた。目を逸らす。どんぶりばちの中身に見入る。
 どっさりと盛り込まれたかつおぶしを除けば見かけもにおいも先程KUROGANEが持って来たものとほとんど変わりはない。
 なのに…なのにこれは、美味いのだ。自分の舌が突然異変をきたしたんじゃないのかと思うくらいに。言葉で表現出来ないくらいの美味。一体何を使ってどう調理すればこのような味が出せるのか皆目見当もつかない。
 ちらりと隣をうかがうとHyuGaとRyuKaの兄妹も箸を握り締めたまま愕然としていた。ものを食べられないKUONはCAGE達の沈黙の理由がわからず無言でこちらの様子を見つめている。HARUKIは一人淡々と食事を続けている。
「どうだい? お気に召したかな?」
 どこか勝ち誇ったような響きさえ感じさせる快活な声でそう言って、HALKA は居並ぶ一同の表情を見渡す。
「おいしい…! HALKA さん、これすっごくおいしくなってますよ」
 素直に反応したのはRyuKa一人。
「ふふ、そうだろうねぇ。RyuKaちゃんが味のわかるコで嬉しいよ」
「さっきと全然違う味になってますけど…どうやったんですか?」
「おいしいって褒めてくれたお礼に教えてあげようかな。味の決め手はこれだね。白ワイン」
 言いつつ洒落たラベルのついたボトルをどこからともなく取り出してみせる。
「し、白ワイン、ですか?」
「そうさ。まあ、ちょっと効かせた程度だけどね。あとレモンとはちみつを少々。僕としては砂糖を使いたかったんだけどここはレシピの考案者であるKUROGANE君に敬意を払って彼の意見通り隠し味にガムシロップを入れてみたよ」
「お前は…食べ物で遊ぶなと教わらなかったのか、常識として!」
 耐え切れずにHyuGaがとうとう口を挟むが…。
「おや、僕がいつ食べ物で遊んだと言うんだい? ひどい言いがかりだよ。そのうどんが美味しく出来てることは認めるだろう、HyuGa? 君の舌が君の生き方と同じくらい歪んでるのでもない限り美味しいはずだよ」
 あっさりかわされた。かわされるとわかっていてもがっくりと脱力してしまう。
「そっかァ…白ワインに、ガムシロップかぁ…」
「RyuKaちゃん! 覚えちゃ駄目だRyuKaちゃん!」
 打ちのめされている兄に代わり必死に止めるCAGE。
「それにしても、君らはいつ会っても揃いも揃って暇そうだねぇ。日常に悩み苦しむような問題もなさそうでうらやましい限りだ。これからもずっとそんな感じで生きてゆくのかい?」
 HyuGaはヤケになってちょこ焼きうどんの残りを荒々しく平らげている。RyuKaはKUONと顔を見合わせ、オレが答えるのかよとCAGEが苦い表情をつくりかけたときに、カウンタの端で空になったどんぶりばちを置いたHARUKIが口を開いた。
「お前も随分暇そうだ」
 反発でもなく皮肉でもなく、無感動に平坦に事実を述べるだけの口調でそう言う。HALKA と視線を合わせるでもなくそれ以上何かを言い足すでもなく。ぽつんと放り出された台詞。
「口がきけたのかい、僕の義弟」
 同じような調子でHALKA が返す。短いながらも辛辣な台詞のやりとりにCAGE達が一瞬身構えるが、その場の雰囲気が険悪さを帯びることはなかった。HARUKIは一声発しただけで自分をとりまく全てのものに対する関心を再び失って視線を落とす。HALKA も義理の弟の存在を忘れ去ってしまったかのような自然な態度で表情と声色とをすっぱり切り替えて、楽しげにCAGE達を見回した。
「さぁて。名残惜しいがそろそろ時間だ。いつまでも君達と頭を使わなくて済む会話を続けていたいのはやまやまだけど、人には誰しもしなければならないことがある。…ふふ、まあ君達はもうしばらくゆっくりと食事をしていてくれたまえよ。人間、睡眠と食事の時間だけはきっちり確保しておかないとまいってしまうからねぇ。ということで健康には気をつけて」
「HALKA サン、時間ッスよ」
 ドアが開いてHomu_Raが呑気に顔を覗かせた。
「いくらなんでもそろそろ行かないと。あそこが封鎖されちまったら撤退が骨です。それともまたKata_Haの奴に泥かぶらせるつもりですか?」
「まさか。僕はそんなに悪どいことは思いつきもしないよ。無意識に実行してしまうことはあってもね」
 黙って思ってるだけの方が百倍も害がない。
「それに三回連続じゃさすがにアイツも気の毒だ。僕のメンテを嫌がるもんだから最近は全体的な性能も落ち気味だしね。そうとなったらさっさと行動するに限るか」

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