++ワタシノココロ++
index|コレマデ|コレカラ
2004年01月15日(木) |
・・・・・泣かなかったよ。 |
今日、やすくんは一人でうちに帰る。
一人で。
実は、実家に帰ってきてから毎晩 二人きりになるとこの瞬間を思って涙していた私。 やすくんはいつも 「だいじょうぶだから」って 何度もつぶやきながら、大きな手で私の頭を撫でて慰めてくれていた。 私が眠りにつくまで、ずっと。
朝がきた。 いつも以上に早く目が覚めた。 隣で静かに眠っているやすくんの顔をじっと見る。 目を。口を。鼻を。髪を。
一つずつ、じっと。
そんなに簡単に忘れちゃうわけがないのに、一生懸命頭に焼き付けた。
「途中で雪が降ると大変だから、少し早く出ようと思うんです」
母さんと3人での朝食で、やすくんが突然いった。 母さんも、「そうだね、まだまだ雪が心配だから」と頷いた。 やすくんはいつもと変わらない笑顔で母さんに頷き返して そして、私を見た。
いつもと変わらない笑顔で。 私は、一生懸命笑顔を作ろうとしたけど
ダメだった。
隣に母さんが座っているから、悲しい顔はできない。 引きつる顔で、トーストをかじった。
荷物をまとめるのは私。 やすくんは「自分でやる」といったけど、こっちで洗った洗濯物と 昨日着ていた服をわけたり 忘れないで持って帰って欲しかったいくつかのものをカバンに詰めた。
いつもと変わらない笑顔でそんな私を見ているやすくん。
でも。
いつもだったら、もっと色々話し掛けてくるはずのやすくんが いつもだったら、もっと近くにいてくれるやすくんが いつもだったら、もっとゆっくりと過ごしてくれるやすくんが
今日は違った。
くだらない冗談は、いつも以上に空回りしていたし 私をギュッと抱きしめてくれる腕は、なんだか私を避けるようだったし なんだかいつも以上に他人行儀だった。
途中の珈琲屋さんまで、母さんと見送ることになった。 珈琲屋さんまでは、2人きり。
何を話したか、覚えていない。
美味しい珈琲とちょっとしたケーキを食べて 他愛のない話をして、 私たちは店を出た。
車に乗り込むやすくん。 車の外で見送る私。
こんなの、初めてだ。
「じゃあ、すいません。よろしくお願いします」
母さんにいつもと同じ笑顔でそう言って
私をちらりと見ながら、でも視線を合わそうとせず 「じゃあ、がんばって」 とやすくんは言った。
その瞬間、やすくんの気持ちがわかったような気がして そして、その気持ちは私と同じなんだとわかった。
淋しいのは、わたしだけじゃない。
胸の奥をギュッとつかまれたようだった。
涙が湧き出しそうになってきたけど 必死でこらえた。
泣いたら、またやすくんを心配させる。 余計に淋しさが募ってくる。
そう思ったから。
涙がこぼれそうになるのをぐっとこらえて 私は笑って、やすくんを見送った。
車が出て行く直前、 やすくんとはじめて目が合った。
やすくんは私が泣かないで送り出してる姿を見て 少しほっとしたような表情をして 今度はちゃんと目を見ながら 「がんばれよ」 と、
ちょっと淋しそうな顔で笑った。
これから、しばらく離ればなれ。
次に会えるのは
二人が「親」になったとき。
|