++ワタシノココロ++
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歩いて歩いて歩いて、
そして、やすくんに車に乗せられた。
「家に帰る」
そう一言だけ言ったやすくんの言葉が悔しかった。 絶対に帰らない、と思っていたから。
やすくんが嫌いなんじゃない。 やすくんの家族が嫌いなんじゃない。 いろいろなことが積み重なって、 ただ、いられないと思っただけ。 ここにいたくないと思っただけ。
夜は、食欲もなく、起き上がる気力さえ残っていなかった。 呆然とベッドに横たわるだけ。 そんな私にやすくんはかなりいらいらしていたみたいだったけど そんなやすくんの心の中を考える余裕さえなくなった私は ただ、連れ戻されたことが悲しくて、涙が止まらなかった。
次の日。
くらくらする頭を抱えて、やすくんの家族と朝食を取った。 昨日のことを隠すように、ひたすら笑顔で。 やすくんの表情は相変わらず厳しかったけど もう、どうでもよかった。
仕事中もいらいらした様子を見せるやすくん。
私も、もう耐えられなかった。
「私がいることで、そんなにいらいらするんだったら 昨日、あそこで連れ戻さなかったらよかったじゃない」
2人きりになったとき、思わずそういった。 やすくんは変わらずいらいらしたそぶりを見せたけど 私の投げかけた言葉には何の反応もしなかった。
「だから、帰らないっていったのに」
変わらない家、変わらないやすくん、変えられない自分に もうほとほと嫌気が差して 黙って出て行こうとした。
そのあと、 やすくんはこれまでにないほどの力で私を部屋に押し戻し
そして、 これまでにないほど激しい言葉で私に詰め寄った。
私も、自分の思ったこと、感じたことを 思いつくままやすくんにぶつけた。
これまで、何度もけんかをしてきたけど 思いを爆発させて、ぶつけ合って それでもどこか冷静な自分がいて ぶつける言葉も瞬間瞬間で取捨選択していた。
今回はだめだった。
何か言葉を発すれば発するほど たまりにたまった不満や憤りが胸からあふれ出て 冷静な自分を心のどこかに置く余裕すらなかった。
いつも以上に激しい気性の私に はじめは厳しい表情で見ていたやすくんも だんだん目の色から怒りが消え 時々視線をはずすようになってきた。
そんなことに気づいて もしかして、自分が言ってはいけない事を口走ったのかもしれない と
初めて我に返った。
ようやく、冷静な自分を取り戻し、やすくんの気持ちを考える余裕が生まれて 落ち着いて話ができるようになった。
「私に何をしてほしいの?何を望んでるの?」
「・・・一緒に働いてほしい」
「だったら、パートで雇ってください」
「そうじゃなくて」
「・・・なに?」
「一緒に生活してください」
そうして
やすくんは 「ききがそれほどまでにいろいろ思いつめていたなんて、全然気づかなかった」 といって 「ごめん」 とポツリとつぶやいた。
私も 「傷つけるようなことを言ってごめん」
といって
なぜか二人で笑った。
初めて、後のことを考えず自分の気持ちだけで動いた喧嘩。
こんな喧嘩は二度としたくない。
自分の手で、私の一番大切なものを少しずつ傷つけて そして壊してしまうような そんな喧嘩は二度と。
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