日曜日から昨日まで、ランディの実家に行っていた。
ランディのお父さん、お母さんが、旅行に出掛けている間の留守番である。 ひとり残るランディのおばあちゃんは、もう九十歳、留守中になにかあっては大変だから、という理由である。 が、しかし、このランディのおばあちゃん、耳は遠いものの、矍鑠としている。はっきり言って、わたしより元気かもしれん。
で、旅行から帰ってきたランディのお母さんからお土産に葡萄だの栗だのを貰い、喜んでいると、ランディのお母さんは、バッグからビニール袋を出した。 ザラメ砂糖と醤油と水をフライパンに入れ、ビニール袋の中身をだーっと豪快に流し込んだ。
よく見ると、それは……蝗だった。
イナゴを、虫の皇と書く理由はなんなんだろう。 とか、どうでもいいことを考えてしまった。
「お父さんってば、旅先でものんびりできなくて。その辺散歩するって行って帰ってきたら、こんなにイナゴ獲ってきちゃって……しょうがないから、向こうで下茹でしてもらってきたの」
「う……う……うわぁぁぁぁぁ!!」
とは、流石に叫ばなかったが、硬直してしまった。
「あら、あんたもだめなの?」
「……だめ。絶対」
「食べられるのよ」
「……らしいですね」
「美味しいのよ」
「……いや、あの、それは聞いたことあるけど……」
「買えば高いし」
「うん。お惣菜屋さんで見たことあるけど……」
「高かったでしょ?」
「うん。凄く」
……実は、イナゴの佃煮を売ってるのを見て以来、同じ鍋で他の惣菜を煮てるのかと思うと気持ち悪くなって、その店では二度と買い物できなくなってしまっている。
好き嫌いは、昔に比べて少なくなったと思うが、虫はだめだ。 イナゴも蜂の子も、食べられるものだと判ってはいるが、わたしには無理だ。 とりあえず、この珍味を食する機会は、飢えて他にどうしようもないときまで取っておきたい。 あと、キーボードで打ち込むことにさえ耐えられない生物が二、三いるが、それは飢えたとしても、口に入れるのは、絶対御勘弁願いたい。
ランディのお母さんは、ファッショな人ではないので、新鮮な蝗を炊いた佃煮を、無理に奨められることはなかった。 ランディが、食卓に載ったそれを見て、「うげっ!」と言って目を逸らしたことに、ほっとした。
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