高速夜行バスを降りたのが午前六時半。 蒸し暑い。 バスの中で殆ど寝られなかったために、だるい。 とりあえず、腹ごしらえをしたいが、開いている店は無い。 まあ当然か。 コンビニ弁当を買って、その辺のベンチで食べるのも味気ない。 コンビニの中で涼みつつ、時間を潰す。
八時を過ぎると、周辺の喫茶店が開きはじめる。 適当な店に入って、トーストとスクランブルエッグのモーニングを食べる。 さて、これからどうしよう。 と、考えていると、隣の席で、おばあさんがコーヒーを飲んでいるところへ、ウェイトレスがメニューを持ってやってきた。
「あちらのお客様が、なにか御注文なさってくださいとのことです」
おばあちゃん、目が点。 わたしも、目が点。
此処はショットバーかなにかか?
『あちらのお客様』は、そのおばあちゃんより若く見えたが、確実に、初老の域を超えているように見えた。
さすがは、京都。 なにが起こるか判らない。 暑くて観光する気も失せたし、たった今見た出来事を、是非ともだれかに話したい。
と、いうことで、おた画伯に電話。 午前九時半。 さほど非常識な時間ではないと思っていたが、
「俺……朝の六時に寝たんやけど……」
「暇でしゃーないねん。暑いから観光するのも嫌やしー」
仕事で徹夜して寝てた人を強引に呼び出しさっきとは別の喫茶店へ。 鬼のようなことをしてしまったので、朝飯を奢る。 先刻の出来事を含め、たらたらと、どーでもいいことを語る。
午前十一時過ぎ、アリア到着。 丁度昼時なのでパスタを食べに行く。 雲丹のパスタが美味だった。
更にだらだらと語った後、おとめちゃんとの待ち合わせのために移動。 人混みの中、わたしが持ってきた重くてでかい荷物を引きずってくれた画伯に、中に一体なにが入っているのかと訊かれ、
「瓶入りの酢が二本」
と応え、しばかれそうになる。 他、中華菓子三箱、一週間分の着替え、道中の暇つぶしの本等である。
「そんなもん、前もって宅急便かなんかで送っとけー!」
「手ずから持って行くから手土産というのじゃ」
と、我ながら、訳のわからない言い訳をする。 おとめちゃんがやってきて、四人でまた語る。 行く先々で飲み物を飲んだが、暑いのでいくら飲んでもすぐ喉が渇く一日だった。 夕方、飲み会に参加できないおとめちゃんが帰る。
そして、サバトがはじまった。
鴨川の橋に集結するオフ参加者たち。 らるご、アリア、おた画伯、作戦名・不可能さん、子竜さん、元気蜂さん、そして、遅刻してきたえむせぶんさん。
皆で予約の店に移動。 ちなみに、オフ開催が決まったときには、すぐ近くの居酒屋で学生のコンパのノリで鯨飲馬食するはずだったのだが、アリアの
「あそこは不味いから嫌」
のひとことで幹事の作戦名・不可能さんをパニックに陥れることになってしまったのである。 で、えむせぶんさんお奨めの店で飲むこととなった。 店を知ってるはずのえむせぶんさんでさえ、気づかずに、店の前を通り過ぎようとしてしまったのは御愛敬。 店に入ってから暫くは、「飲み放題ついてる方が良かった」「酒飲みのくせにー」などと、わたしや画伯はアリアに苦情を言い立てていたが、料理が来たら、だれもそんなことは言わなくなった。 アリアの我儘と、とっておきの店を教えてくれたえむせぶんさんに感謝。
めちゃくちゃ美味しい。
グルメな家庭に育ったアリアが絶賛していた。 殊に、薄切りのパンとともに食べるシチューは絶品であった。
二次会はカラオケ。 全員、異常なノリでアニメソング大会になった。 子竜さんはうわばみで、幾らでも飲むし、飲んでも顔色ひとつ変えないし、アリアはなんか知らないがリミッターはずれてるし。 このメンバーの中で、ひとり音痴にも関わらず、恥を忘れて、わたしもガンガン歌った。 三時間、マニアックな曲を歌いまくるこの集団を、ひっきりなしに飲み物を注文されて運んでくる店員さんはどう思っていたことだろうか。
カラオケボックスを出た時点で、既に日付は変わっていた。 わたしとアリアは事前に宿を手配していたので、そちらに向かう。 男性陣は、えむせぶんさんのところでサバトのつづきをすることに決まったようだった。
「職人の家」という、西陣織の職人さんが営む宿の御主人は、深夜にも関わらず、自力でたどり着けなかったわたしとアリアを迎えに来てくれた。
アリアとわたしが、一緒に旅行をするのは、中学の修学旅行以来である。 「お話しましょー」などと言っていたアリアだが、わたしが顔を洗いに行っている間に熟睡していた。 わたしも、布団の中で手足を伸ばして眠れる幸せを噛みしめた。
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