少し前の予定では、今日あたり、実家の両親と弟が遊びに来ているはずだったのだが、今年中には遊びに来られなくなったらしい。 まあ、12月20日なんて連休でもなきゃ、クリスマスでもなく、大晦日でも正月でもない中途半端で、かつ、クソ忙しい時期に来るのはお互いどうかと思うので、それはそれで良いと思っている。
だから、その代わり、というわけでもないが、実家に電話してみた。 母が出た。 いつものように近況を尋ねたら、一番近くの小さなスーパーではなく、少し離れた大型店に行ったときの話をはじめた。
「自転車で出掛けて、帰ろうとしたら、自転車が無いんよ」
盗られたか。
「ううん。盗られてなかった。置いた場所を忘れてたみたいで。まあ、結局、見つけたんやけど」
わたしを笑わせるつもりで説明しつつ語尾が笑っている。 いや、面白くないぞ。全然。 あんな大きな店に行くなら、判りやすいところに停めないと、と言うと、
「いや。いつも停める場所は一箇所に決めてある。物凄く判りやすいところに停めた」
だったら何故、判らなくなるか。
「おんなじような自転車多いやろー?」
名前書いておけ。
「書いてある。それでも、よう見つけんかった」
……つける薬は無いらしい。
「ほら、お母さん、方向音痴やろ?」
そこに住んで何年だ。
「えーと、引っ越してきて、そろそろ三年……」
そんなだから、あなたが出掛ける度に父が心配するのだ。 わたしは、父のように、あなたにひとりで出掛けるなとは言わないが、出掛けるならもうちょっとしっかりしてくれ。
「出掛けるなとは言わへんて……言うてるやないの」
言ってない。
「お母さんかて、其処へ遊びに行ったんとちゃうんよ。三階にある歯医者に通ってるんよ。うちから一番近い歯医者、初診でも予約せえ、言うんよ。そやから、あそこまで自転車こいで……」
だから、遊びにであろうと、買い物にであろうと、歯医者であろうと、出掛けるのはいい。 しゃんとしてくれと言ってるのだ。 事故に遭ったり、自転車でコケて、泥まみれの痣だらけで帰って来たりもしたし、数限りなく家族に心配かけてきたのだから、少し自覚して、気をつけてくれと……
「そんなん無理や」
母よ。 そんなこときっぱり言い切らないでくれ。
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