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書くほどのこともない日常
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2001年10月23日(火) 天然

今日で、仕事はじめて一週間である。
来週の月曜までなので、約半分来たことになる。

現在、同じ会社から派遣されているスタッフの中で、わたしと同じ作業をしているのは、わたし含めて四人である。
単純作業ゆえに、仕事中は話をすることはそれほど多くないのだが、行き帰りや、休憩時間はそこそこ雑談するようになった。

ひとりは若い男性。
残りふたりは、十九歳と二十代後半の未婚の女性たちである。
正直、最初、顔を合わせたとき、十九歳の女の子を見た瞬間、内心、「げっ!」と思った。
金茶色の髪、灼いた肌、ごってりつけたマスカラ、持ち物はピンクか、そうでなければ豹柄。
携帯なんかも本体はピンクで、プーさんのカバーをつけていて、中身の文字盤は豹柄だった。
ああ、好きなんだろうな、と判りやすい。
が、べつの意味では、わたしには理解不能な趣味である。
ギャルだ。
余りにも判りやすいギャルだ……。
これは……下手すると割を喰いそうだ、と秘かに憂鬱になったものだった。

が、先入観に騙されてはいけなかった。
彼女は、たまに敬語の使い方を間違えるが、言葉遣いは丁寧だし、仕事熱心で、几帳面だったが、仕事以外では、物事に拘らない、鷹揚な性格だった。
他のスタッフが休憩時間に恋愛話や、会社の悪口を言っているのにも入って行こうとせず、わたしや、もうひとりが本を読んでいる横で、退屈だろうに静かにしている。
今日などは、鼻はずるずる、咳はこんこん、顔色は真っ青なのに休まずに出てきた。
仕事は速いペースで進んでいるから、ゆっくりやればいい、身体が辛いなら手を止めても構わない、と言われたにも関わらず、物凄い勢いで手を動かしていた。
「大丈夫?帰る?明日は休んだら?」と、言っても、
「全然平気です!明日も絶対来ます!」
お金が欲しいから、と言っていたが、それでも偉い。
第一印象があてにならないものであることは多いが、これほど顕著な例も珍しい。

いい子である。
いい子には間違いないが、彼女は天然系なのではないかと思っていた。
前にも、彼女が毎日電車を乗り降りしている、地元駅のすぐ近くの派遣会社の事務所の場所を覚えていなかったりしたが、まあ、数ヶ月前に引っ越したばかり、ということで納得した。
だがしかし、そこまで一緒に行ったあと、ビルの前で別れようとしたら、
「あの、わたし、原付を駅の近くに置いたんですけど……どっちでしたっけ?」
駅から、その原付を横目に二分ほど歩いて事務所に来て、三十分後に外に出てきたら、もう判らなくなったらしい。
わたしも地図が読めないくちだから、方向音痴については、人のことは余り言えない。

今日、彼女は天然系なのではないか、という疑問は、確信に変わった。
確かに、風邪でぼーっとしていただろうし、恐らく熱もあったのだろう。
が。
彼女は、帰り道、わたしが、乗り換え駅のホームで、瓶入りの、ウェルチのグレープジュースを飲んでいるのを見て、おそるおそるという感じで、
「なん…ですか……?それ?」
と尋ねた。
「え?ジュースだけど。葡萄の」
と、応えると、彼女は、


「あ、びっくりした。かと思った」


……彼女は、わたしが、自販機でそれを買ったのをしっかり見ていたはずである。
彼女は、間違いなく天然だ。


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