ことばのかけら
桜子



 ハルニッキ(仮題)040312

薄曇り

玄関の扉を開く
鮮やかな白が真っ先に目に飛び込む
…お向かいの白木蓮

静かだ
家の裏で鳴るモーター音が気になる程度
人通りも殆どない家の前の通り
お陰で、羽織ったコートのファスナーに
布地が食い込んだのを直すのに集中出来る

集中すること、2、3分
鼻をつんざくような強烈な香り
門横の沈丁花
こちらを向いてと存在をアピールさせている

ファスナーは直らない
諦める
門扉を開けようとして、少しためらう
一瞬の間を置いて、門をひらく

・・・本当に静かだ
何もない、と言えるくらい静かだ
通りは自転車で通る人たちが圧倒的だ
子供づれの、買い物帰りの奥様方
遊びに出るのか若い学生さんくらいの年齢の少女二人
一台、白い車が通る
その音にびくっとする
黒いコートの、マスクをした中年男性
風邪ですか 鼻炎ですか お大事に


冷える
肌寒い
ピンと身が引き締まる
…ようでいて、からだの温かさを感じて却って眠たくもなる
今日の空によく似合う温度
水にほんの少しの墨が混じった空色
…よく見れば、それも互い違い、様々な灰色をしているのに気付くのはもう少し後の事…

あまりに静かで持て余す位
ファスナー直し再開
ぐいぐい力任せに下ろそうとしていたものを上げてみる
あっさりと直る
・・・こんなものか、と思う

遠くに目をやる
白いのに比べ、やや咲き遅れる紅い木蓮
雑木林のような場所にたったひとつ花をつけている樹

少し近くに目を戻す
となりのとなりのお宅の庭に咲く樹の花
…サザンカ?ツバキ?
季節的には絶対ツバキ
歩みを進めて近寄る
確認
ぽってりしている 多分、ツバキ

視点を90度変える
畑に咲く菜の花

紅、赤、黄色…そして白
憂いの似合うこんな空気は、色を鮮やかに引き立たせる

長年遊んだ空き地
只今売却中、ののぼりは先日の嵐のようなかぜですっかりくしゃくしゃ
すこし痛快

……少し歩みを進めたところで
どこからかカレーの匂い

帰ろう。

ドアを開ける
家を出る前寂しそうに鳴き叫んだ飼い犬が嬉しそうに出迎えてくれた

2004年03月12日(金)
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