☆言えない罠んにも☆
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2008年01月17日(木) 題名未定

濃紺に浮かび上がる真っ白い羽が二枚。

艶々とコーティングがかかった滑らかな表面。

そっと、指先をすべらせる。

これに、しよう。

本を閉じて、キャッシャーに向かう。
値段は覚えていない。
ただ、早く帰って、すべての絵柄を確かめたくって走った。
ぶつかりそうになった人がファーつきのコートを着てたのを覚えてる。
息が白くなってたから、もう、12月に入ってたんじゃないかな。


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”聖別”という作法がある。
”作法”っていうのが正しいのかは自信がないが、それ以外妥当な表現が見つからない。
お茶の”お手前”てやつの手順の中の、”お清め”ってやつにそっくりなんで、そう呼んでる。
そう、おさじとかを袱紗って布で拭うやつね。お茶は作法っていうでしょ?
だから、”清める手順”って”作法”が妥当な気がするんだけど。
どうかな?
ところで、袱紗って絶対当て字だよね。ね?


ぼくはわくわくしながら聖洗の準備をする。
ガラス鉢にはいった、アロマキャンドル。
ゴブレットとミネラルウォータ。
買ってきたばかりのカード。
ビロードのクロスをデスクにかけ、
カーテンを引いて、照明を落とす。

火災報知機が鳴っちゃいけないから、窓は開けておいた。
カーテンがゆれる。
キャンドルに点火する。
蝋が芯を伝い、透明な池をつくる。
炎が、ふ、とゆれる。
キッチンから拝借してきたイタリアンソルトを一つまみ、炎に振り掛ける。
きらきらと輝いて、炎が揺らめいた。

ぼくは、ゴブレットに水を入れ、ビロードの真ん中にカードを置き、目を瞑る。

「はじめまして、ぼくのカードたち。これからよろしくね。」

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大枚はたいて買った新築のマンションに、幼いわが子が油性マジック落書きをした。
これって、とりかえし、つくよね?
大枚はたいて買った新車の窓から、幼いわが子が転げ落ちた。
これはどう?

婚約のしるしに彼氏からもらったカルティエのリング、海で泳いでたら取れちゃった。
これってショックだけど、
国家の存亡がかかった密約の証かなんかの王様の指輪、うっかりまきあげられちゃった。
こっちよりはダメージ少なくない?

ぼくはね、自分が予想外な状況になったら、なるべく、その状況がどのくらい酷いか
客観的に見るようにしてる。
自分のことを客観的に見にくいときは、近い状況を考えて、比べるとわかりやすいよ。

聖別っていうのは、手に入れたカードを、清めて、いままでの記憶を消し、
あたらしい所有者に帰属させるっていう意味の儀礼作法のこと。

買ったばかりのカードでも、カードに、自分たちの所有者がだれか教え込む大事な手順。
だからちょっとまじめに勉強した人なら、省略するわけにはいかない作業。

難しいものじゃないよ。お布施とかいらないしね。
カードを、火と水で清めて、ひとつひとつに挨拶するだけ。
具体的に言うと、生理食塩水の入ったコップの上に20秒ほど乗せて、
一枚ずつろうそくの火にかざした後、顔の前で名前を呼ぶだけ。

「こんにちは、ハングマン、よろしくね。」
「おっス、エンペラー、たのんだぜ。」
「運命の輪ちゃん、はろー☆」


いや、ぼくはもう少し丁重な表現にしたけどね。

軽い挨拶から始まると、軽い関係になってしまう。
面接と聖別は、第一印象がものを言う。
敬意を込めた宣誓。
もちろん、カードは耳があるわけじゃないから音に出さずに唱える。わかるよね?

ちょっと大変なのは、1枚ずつ、ってとこかな。
現代っ子って疲れてるでしょ?
薄暗い、ろうそくだけの部屋で、22枚のカード全員に挨拶し終えるまで、
睡魔に負けずにいなきゃいけないってけっこうつらいんだよ。
酸素が薄くなって、どんどんまぶたがとじていって。。。

負けたらどうなるって?
ぼくみたいに、カードのコーティングがろうそくの炎で溶けて、曲がっちゃった”HighPriestess”ちゃんを制服のポケットに入れて、持ち歩いたりしなきゃなんなくなる。
いちどへそを曲げちゃったら、なかなかゆるしてくれない女の子みたいにね。
おだてすかして、なだめすかして、ちらっちらっとご機嫌とって。
一瞬の睡魔の代償、だね。


ただ、そうなればなったで、毎日顔を合わせる”HighPriestess”ちゃんにだんだん親近感が沸いてくるんだ。
不思議でしょう?
そんなに人気のあるカードじゃないんだけどね。
知性とか、理知的、ってポジティブなとこがなくもないけど、どちらかというとネガティブなイメージのカードだからね。
それがいつのころからか、この銀色の冷たい月も、陰気くさいすみれ色のローブも、
粘着そうな陰鬱な表情も、ちょっとゴスロリなティーンエイジャみたいでかわいくなってくる。
”Fool”や”Sun”っていう、明るくって陽気なカードが、大味で単純すぎるように感じてくる。
不思議でしょう?
あ、や、その、ロリどうのこうののとこは、あくまでも、この子に関しての話だからね!

制服のブレザーの胸ポケット。
それがちょっと歪んだぼくの”HighPriestessの”定位置。

いつも身に着ける自分にとってのラッキーカード。
タロットの世界ではそんなカードを「スペシャルカード」と呼ぶ。
ぼくのスペシャルカードはこうして決まった。
もうちょっと景気のいいカード(スター、とか、マジシャン、とかね)にするつもりだったんだけど、
そこんとこは内緒。”HighPriestess”ってやきもち焼きだからね。

そんなわけで、ぼくは彼女にカーブをつけちゃったんだ。
世の中に、取り返しのつかないことはわりとたくさんある。
できれば、すこし時間を戻してなかったことにしたいけど。
できないことはできないよね。

それに、もし完全に燃えちゃってたら、ほかの21枚(小アルカナは挨拶いらないんだ)にも
お別れしなくちゃいけなかった。
延焼して火事になってぼくまでこの世とお別れ、って可能性だってあったんだし。
そこまではひどくない。
そうおもえば、なにも騒ぐような話じゃないって思えてくるでしょ。

それに、ぼくは、結構このスペシャルカードを気に入ってる。
この子はぼくが守ってあげなきゃいけない気がする。
みんなはもっと、一目惚れしたり、選びに選んだりして自分のスペシャルカードをきめるけど、
accidentally
そういうのも、あるよね。
(つづくー)


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