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 San Pedro Day

インティライミも終わり、そろそろクスコを去る時がやってきた。けれど、その前に二つほどしておくことがある。この二つが今回の旅のメインイベントなのだ。その一つはサンペドロと呼ばれるさぼてんを身をもって体験すること。体験者からいろいろ話は聞いたけれど、やっぱり自分自身でその世界を感じ取りたい。その為にわざわざこんなに遠くまでやってきたのだ。本当は二人以上でないと行わないということだったけれど、無理を聞いてもらった。バディは禅にかぶれていたおとうさんからそういう影響を受けていたっぽい南アフリカのヒト。


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クスコから車で30分ほど、着いたところはマヤの人々の間で金がわんさか湧いてくると言われていた湖。美しい。湖のほとりにするか、小高い山に登るかどうすると聞かれ、ちょっと困っていたら「登りたいんだよね」と言われる。確かにそうだ。言葉には出さなかったけど気持ちは伝わったらしく、気が付いたら二人して丘に向かって歩きはじめていた。

大した山ではないのだが、そこら中さぼてんだらけで、スニーカーの靴底なんていとも簡単に貫通してしまいそうな5センチくらいのするどいとげを持っているモノもあるから油断はできない。おまけにブッシュのさぼてんにたわわになっている小さな子供のさぼてんは「ぴゅーん」と音をたてながら(本当にそういう風に思えた)洋服にへばりついてくる。そんなわけで距離はそうでもなかったけれど、実際歩いたのは15分ほどだと思うけど目的地のケイブにたどり着くころにはちょっとくたくただった。ワリックは早速儀式の準備にとりかかる。そう、ホントにプチ儀式という風でちょっと面食らうが、素直にそして真剣な気持ちで、呪文のような言葉を唱えながらコカの葉っぱを宙にばらまき、心が落ち着いたところで、コップに入った緑色のドロドロした液体を二口ほどで飲み干した。ひどく苦いとか、まるで洗剤のような味だと言われてるが、別に気にもならなかった。心がピュアだと苦くないらしい。ははは。

それから30分ほどはメディテーションということで岩のくぼみに向かって歩く。途中目をつぶったまま数歩歩かされ、「目をあけてごらん」って言われた私の目の前にはインカの世界が広がってた。普段は高いところは虫酸が走るくらいキライだけどあまりの美しさに感動してしまう。どうやらもうすでに気持ちが穏やかになってきているもよう。

岩のくぼみの中で、これからどんなことが起こるのだろうとか、ぼぉーっととりとめもないことを考えていた。けれどナニも起こらない。ちょっと半信半疑になってくる。その間に「今日は特別にぼくも」と言っていたワリックもさぼてんを飲んだようで「そろそろ湖のほうへ行こう」と呼びにきた。ケイブを出てみると鳥が私達のほうを見てた。羽をばたばたさせることもなく空中で静止しながら。あんなことができるなんてすばらしい。山を下りると途中の沼地には水草を食いあさる羊たちがいて、その様子は私の体をむさぼっているようにも思えた。通りを渡ったところで、ワリックが今度は毛虫を見つけた。私のジャケットと同じ、鮮やかなオレンジ、こんなの初めて見る。(こういう風に書いていると、そういうのがこのさぼてんの幻覚なのかと思うヒトもいるかもしれないけど、そうではない。コレは本当に見たもの。ただ、きっとしらふの時にはつい見過ごしてしまうような類いのことなのだろう。)

そして湖のほとりに残されたインカの廃墟の部屋の一角に腰をおろし、ワリックはいろんな石を並べ「助けが必要になったら音を聞くんだよ」とダイヤモンドとどこかの湖の水が入っているというケースを渡してくれた。廃墟の外には、ちょうどひざをちょっと曲げれば横になれるくらいの大きさの岩があったから、その上に寝そべり、瞬時に形を変える雲や、水草の森の中で水浴びする鳥や、せっせと働く蟻をぼんやりと眺めていると、ソレは自分と自然とのかかわりを表しているように思えてきた。きっと何万年も前からソコにある山の歴史が見えてくる。いろんな思い出がスライドショーのように甦る。自分がこんなに自然と密着した生活、人生を送っていたんだということに気が付き、幸せな気持ちになる。今まで、意識して逃避してきたところを愛おしく感じる。

涙が止まらない。あたたかい涙だ。

大地を潤わせるために降る雨と同じで、心が乾ききってしまわないように、乾いてしまった心の部分からもまた新しいナニかが芽生えてくるためにも、こういう涙を流すことも必要なのだ、と教えられているようだ。今までの出来事が、ひとつひとつはっきりとした意味をもっていることに気づき始める。Everything gets clear and makes sense! そう気がついて心がなごみ、私は安心してどんどん泣いた。

◆◇◆


古くから『聖なる儀式』に用いられてたっていう、このさぼてん、いわゆる幻覚作用があるのだけど、幻覚といっても、別にとなりにいるヒトが牛になったり、地面からゾンビが出てきたりっていう類いではない。自然界の美しいモノはさらに美しく、普段はそう思わないモノでさえそれなりに美しく見えてくる。そのかわり、人工的なモノは全く受け付けられない。遠くを走って行く車はもはや形をなしていないし、途中現れた地元の子供が手にしていたラジオから聞こえてきた音楽は、気分を害するような雑音だった。

効き目がよくなるようにということで、朝からナニも食べていなかったから、帰りの車の中では食べ物のことばかり考えてた。私はじゃがいものような大地のかおりのするモノが食べたかった。ワリックはピースープが食べたいと言っていた。帰ってきてから冷蔵庫をのぞくと、そこそこいろんな野菜があったからカレーを作り、ブラウンライスを炊いた。コレが本当においしかったのだ。自然の恵みって感じで。

◆◇◆


ワリックはとってもステキなバディだった。また、どこかで会えるかな。

2003年06月25日(水)
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