メロディの無い詩集 by MeLONSWiNG
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僕の妹は子供の頃 庭で遊んでいて蟷螂を捕まえた 手を引っかかれて跳ね除けようとして もち場所を誤って首をもいでしまった
ころりと転がった蟷螂の首 上目使いに睨んだ目 その日から妹は二度と 虫に触れられなくなってしまった
虫がいつも見てる 虫がいつも見てる 虫が妹を見ている
物陰からそっと 隠れたままじっと 虫が妹を見てる
僕の父は若い頃 戦争に行ってたくさん人を殺した 戦時中食べるものも満足になくて いつも空腹と戦ってた だから飢えをしのぐため父は 何度も何度も何度も 犬を殺して 食べていた
時は流れても 今現在でも 公園や道端や色々なところで かわいらしい犬も 大人しそうな犬も 人に吠えかかったことの無いと言う犬さえも 父の顔を見るといきなり
狂ったようにものすごい形相で 吠え始めるんだ
犬が父に吠える 犬が父に吠える 犬が父を憎み吠えかかる
恨みに溢れた 憎しみに溢れた 軽蔑するような視線で 吠える
僕は価値観の違いから 妻と別れてしまった 一人になって孤独にゆられ 慰みに一羽のカナリアを飼った 毎晩カナリアと会話をしながら 時を過ごした
ある日突然の出張があって 僕は1週間部屋を空けた 出先でふとカナリアに エサをあげてこなかった事に 気づいた時は既に遅かった
家に戻って鳥篭を見たら エサ箱に首を突っ込んだまま カナリアは硬く冷たくなっていた
やるせない気持ちを ため息にのせて 部屋の窓を開けて外を見たら
電線に停まった鳥たちが 30羽くらいみんなじっと僕を睨んでいた
鳥が僕を見てる 鳥が僕を見てる 鳥が恨めしげに僕を見てる
通勤するときも 休みの日でも どこからかじっと睨まれている
鳥が僕を見てる 鳥が僕を見てる 鳥がいつでも僕を見てる
この身体に染み付いた 憎しみのオーラが 今も鳥たちの視線を集めてる
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