2012年03月15日(木) |
今宵、魚のみる夢は(仮)・14 |
オレはただ、人間が許せなかった。彼女を悲しませて傷つけた人間が。けれどそんな忌むべき行為を他ならないオレ自身がやってしまった。 「テティス。どうして!」 「見ていられなかった」 見ていられなかったのはオレのほうなのに。 「あなたはここにいる、すべての人間を傷つけようとした」 彼女の方がオレより一枚も二枚も上手だった。 「あなたには愚かしくて憎々しい相手かもしれないけど。でも私にとっては大切な人がいるの。お母様も妹たちも……お父様も」 「あんな人間、大切にする必要なんかない!」 「……じゃあ、あなたはお父様が傷つけられそうになったら平然としていられる?」 二の句が継げなかった。全てにおいて豪快で破天荒で。それでも、オレにとってはただ一人の父親だったから。 「リール様。お願いです。私達を許してください。……私の命と引き替えに」 オレのできなかったことを人間の彼女がなそうとしている。 「リザ。聞いて」 この傷では助からない。そんなことはわかっていた。わかっていても手を差し出さずにはいられない。 「好きになってとは言わない」 そんなオレの手をとって。彼女の息づかいがさらに弱々しいものに変わっていく。 「ただ、人間を嫌いにならないで」 なんで。そんなことができるんだろう。 「約束する」 絶え絶えの息で。ただオレや周りのことばかり心配して。 「ヒトを、君を嫌いになれるわけがないじゃないか!」 そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。 「行ってみたかったなぁ。ティル・ナ・ノーグに」 それが、彼女の最期の声。 あの時のオレは、本当に子どもだった。
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