2010年05月22日(土) |
委員長のゆううつ。46 |
「お父さんのこと、詳しく聞いたことなかったから」 これは本当のこと。物心ついた時からというよりも、父親の顔はまったくこれっぽっちも記憶になくて。あたしがお母さんのお腹の中にいる前に失踪したって聞いてる。これだけでも最低な男だし、いい印象はない。それでも若い頃の写真の一枚くらい会ってもよさそうだけど、それすらも見せてもらったことはない。 「そりゃそうよ。話してなかったから」 あっさりそう言われると、お母さんはあたしをじっと見つめる。つややかな黒髪に黒の瞳。あたしの髪も黒だけど、なぜか髪だけはきれいねって周りからよく言われてた。 「あんたがお腹の中にいる時に失踪したって、あれ嘘だから」 「聞いてないんですけど!?」 「言ってないもの」 爆弾発言をさらっとされると、お母さんはふうっと息をついた。 「ふらっと現れたのよね。あいつ」 お母さんの話によるとこうだ。仕事をしているときにばったり出くわしたらしい。電車に乗りたいけど小銭がなかったとかで、仕方なくお金を貸してあげたんだとか。その後律儀に返しに来てくれて。そこから逢瀬がはじまったとか。決して格好いいわけではなく、でも人を惹きつける魅力があったらしい。 「でも、やっぱりふらっといなくなっちゃったのよね」 本当に前ぶれもなく。別れの挨拶もないままふらっといなくなったらしい。口約束すらもろくにしてなかったから半分は仕方ないけれど。けれども半分はショックで。 「そんな時だったのよ。あんたがあたしの中にいるってわかったのは」
過去日記
2007年05月22日(火) 生存報告 2004年05月22日(土) 大沢昇祭
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