2009年02月11日(水) |
産業支援の自国優先主義が大不況をうむか |
報道
社説:産業支援の自国優先主義を断ち切れ(2/10) 2009年2月10日 日経
保護主義という名の伝染病があるようだ。 大型景気対策法案をめぐる米議会の審議は大詰めを迎えた。上下両院の法案一本化を経て近く議会を通過すると期待されている。景気対策の早期実施は、世界が待ち望んでいることではあるが、その内容である。公共事業で米国製品の使用を義務付ける「バイアメリカン条項」は保護主義そのものと言わざるを得ない。
議会は「世界貿易機関(WTO)の合意に違反さえしなければ保護主義的でない」などと勝手な理屈をつけるようだ。明らかなルール違反でなくとも自由貿易を推進してきた本家の理屈としては情けない。公的資金による自動車メーカーの支援も雇用を守るという名目で行われる保護主義の動きだ。
自国の企業を優遇する保護主義策は、「雇用を守っている」とアピールしたい政治家に都合がよい。しかし、他国による報復の連鎖を招き、貿易を縮小させて不況を恐慌へと突き落とす危険な行為である。保護主義の伝染はすでに始まっている。自国製品の購入を呼びかけたり、フランスの例に見られるように、国内自動車産業への貸し出しなどの動きが欧州でも広がっている。自由貿易を放棄するようなら、世界はオバマ政権に失望することになる。
米国の不況は小手先の政策で乗り切れるほど甘いものでない。米国の産業構造・金融システム・生活文化・消費文化そのものの是非が問われているのだと思う。
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社説1 産業支援の自国優先主義を断ち切れ(2/10) 2009年2月10日 日経 金融危機に伴う同時不況が、世界の自由貿易体制を揺るがしている。経営難に陥った特定の企業や業界を優先的に救済する産業支援策を採る国が相次ぎ、その結果として各国の市場で公平な競争条件が損なわれているからだ。
ある国が自国の企業だけに有利な政策を打ち出せば、貿易相手国は対抗するために同様の保護政策に傾く可能性がある。この悪循環を放置すれば、国内企業と外国企業が対等に競い合うことを重視した世界貿易機関(WTO)の内外無差別の原則が形骸化してしまう恐れがある。
保護主義は景気後退の局面で台頭しがちだ。差別を伴う保護を求める国内の圧力と戦うのは、先進国の政治指導者の責任である。日米欧主要7カ国(G7)の政府は、今週ローマで開く財務相・中央銀行総裁会議で、保護主義的な政策の横行に歯止めをかける強い意志を示すべきだ。
気をつけなければならないのは、危機対策や産業支援という大義名分の下で保護主義が正当化されやすいという現実である。関税引き上げ、輸入数量の制限など明白な形で外国製品を差別するのではなく、産業政策に名を借りた保護主義がまかり通る懸念がある。
米議会で景気対策法案に「バイアメリカン」条項が盛り込まれた例は典型だろう。公共事業で米国製の鉄鋼製品などの調達を義務づける内容は、紛れもなく保護主義政策だ。だが、WTO協定に照らして是非を問うためには、貿易相手国が米国に異議を申し立てなくてはならない。
苦しいのは米国だけではない。世界的な需要の縮小で、先進国も途上国も同じように国内に業績不振の企業や産業を抱えている。明日は我が身と考えて、対米批判をためらう国があっても不思議ではない。
ここに保護主義の連鎖が起きる危険が潜んでいる。互いの行動に目をつぶれば、実質的にWTO協定の適用外となる事例が既成事実として積み上がってしまう。WTO協定に抵触する可能性がある政府調達の分野以外にも補助金、技術障壁、検疫、輸入手続きなど、灰色の判断が入り込む余地がある分野は多い。
自由貿易体制から大きな恩恵を受ける日本は、自国中心主義の批判を受けぬよう注意すべきだ。政府は資金難に陥った企業を公的資金で救済する新制度を導入するが、国内企業だけを優遇するという誤解を招くことがあってはならない。産業支援策は危機が去るまでの一時的な措置とするとともに、内外無差別の原則を貫いた公正な運用が欠かせない。
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