気まぐれ日記
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2005年08月29日(月) |
アーモンド入りチョコレートのワルツ |
著・森絵都の小説。 淡いな、すごい淡いな……。(表現下手)ファンタジーを読んでいる感覚です。(現代なのに) クラシックが聞きたくなる一冊です。 前に、青春アドベンチャーでドラマ化していたのですが、それはなんだったかなぁ。(ちなみに、ケロロ軍曹のブックカバーほしさに読んだといったら怒りますか?)
森はまだ屋上にいた。力任せに叩いた鉄製のドアは少しもへこんでいなかった。その代わりに森の手には打ち付けた時の痺れが残っている。 「やれやれ」 多分、父に選ばれた患者たちはもう、持たないだろう。死期が早まるだけだ。冷静に考えれば、この世の中は無駄なことをせず、助からないとわかったら安楽死する方が無難だということがわかる。足掻いて生きながらえようとするような世界ではない。 「だから、患者を見捨てるのか?」 ゆっくりと歩いてよく景色の見える場所に移動する。屋上のフェンスに腕を乗せる。こうするのは、学生時代、屋上で友人たちと授業をサボったとき以来かもしれない。もしかしたら、小学生の時、遊んでいて景色を見ようとしたときかもしれない。ともかく、彼は初めてこの病院から景色を見た。 「……」 彼は、目を瞑った。指先でまぶたをこする。目を開けた。 「……」 その景色は、異なる世界が重なって見える。 彼は、目に見えるものが信じられなかった。とうとう、自分までもが見えるようになってしまったのか、とも。 「そういえば、見える基準がわからないんだっけ?」 これまでに、何十人とこの症状を訴える患者が来た。老若男女関係ない。住むところも関係ない。そういう報告が世界各地どこの病院からもきている。 「でも、素晴らしい世界だね」 森は屋上を出た。手の痛みはない。その代わり、目の端をちらちらと蝶が飛んでいた。
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