以前、アルバイト中にズボンのポケットから、入れておいたはずのシャチハタを取り出すべく手をそこに入れ探り出すと、目にしたそれはリップであった。 目にするまではてっきりシャチハタだと思っていたので驚いた。 今度こそはとまた手をポケットに入れ、それらしきものの感触を探り当て取り出すと、それはまたもやリップであった。 これには笑った。 ポケットに二つも入っていたとは。
あとで探してみると、シャチハタは結局控え室の机の上にあった。(控え室というのは、アルバイトの休憩中に使う畳三畳ほどの部屋のことである。) ということはその控え室は僕のポケットだということになるのだろうか。 僕はシャチハタをポケットに入れたはずなので、きっとそうなのだろう。 その日から、アルバイト先の休憩中に使う控え室は、僕のポケットになった。 随分便利で広いポケットだなあ。
ポケットには大きくわけて二種類ある。 便利なものと、そうでないものだ。 便利でないものは、ただ袋の機能が備わっているだけだが、便利なポケットは人が何人も入ることができるほど大きいし、電気も点くので都合がいい。
僕にはテレビタレントの友人がいる。 先日、僕は彼にこんなことを言った。 「ポケットには二種類の意味があって使う時紛らわしいね」 すると彼はこう指摘した。 「いや、会話の前後から判断したらどっちの意味かはわかるからそうでもないよ」 「まあそうだろうね」 「それにしてもアルバイトの人が使う控え室のことをポケットというなんて知らなかった。今度昼の番組の収録があった時にでも豆知識として披露するか」
今日、朝のニュースを見ていると、こんなことをキャスターが言っていた。 「昨晩、○○スーパーでアルバイトをしていた吉岡恒彦さん(22)が休憩中に誤ってズボンについている方のポケットに入ってしまい、圧縮死したということです。えー、昨晩、○○スーパーでアルバイトを…」
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