「白いドレスの女」 近所に僕と同級生くらいの女の子がいる。 そうか、少し違う。 同級生くらいの女の子は数人いる。 いるにはいるが・・・ 僕が普段から意識している同級生の女の子が、一人いるっていうこと。 それだけ彼女のことを無意識に特別視しているのだろう。 一度見たら忘れないような、印象深い女の子だ。
見た感じでは、小学生であるのは間違いないと思う。 自信はないけど。 まぁそんなことはどうでもいい。 とにかくその子は、いつも白いドレスを着ている。 何着も同じものを持っているのだろうか? たまたま僕が見かけた時に限って、白いドレスなのか? そんなことはないだろう。
週に2、3回、僕の家の近所で見かける。 近所のマンションにでも住んでいるのだろうか? きっと、アパートには住んでいないだろう。 あれでアパートに住んでいたら笑ってしまう。 そう思わせる力が彼女にはある。 そえにしてもどこに住んでいるのだろう? よく近所で見かけるのだから、近所に住んでいるのだろう。 まぁ、そんなことは僕には関係がないけど。
そういえば、彼女は小学生のはずなのに、僕の通う小学校では見かけない。 今までそんなことは、気にもしなかったが・・・。 というのも、確かに見た目の年齢から推測する分には小学生だろうと判断できるのだが、とても彼女の立ち姿、仕草なんかからすると、他の小学生と混じって机に座って勉強しているなんて、想像もつかないからだ。
彼女は日焼けを恐れているのか、常にこれまた白い、木星の上半分のような形の帽子を被っている。 だから、角度によっては、顔が見えにくい。 それでも、美人な顔立ちであることは、何故かわかる。 僕は、彼女がその辺りで見かけることが不思議でならない。 何でこんな何の変哲もない住宅街に彼女がいるのか? きっと白いドレスを着ていることが、そう思わせる面も大きいだろう。
ところで彼女と白いそれは、とっても似合っている。 それしか着ないのもうなずける。 本当にそれしか着ていないのかはわからないが。 そんな彼女。 きっと小学生くらいの年齢の。 だが、それは、見た目の印象から推測されるものに過ぎない。 本当は違うかもしれない。 しかし、僕にはそんなことはどうでもいい。
年齢なんて、単なる目安だ。 確か日本人は平均寿命が80歳くらい。 人は、自分の年齢を数えていくことによって、後どれくらいで平均寿命を迎えるかを確認することによって、いくらか死の恐怖を和らげようとする。 その為の年齢だ。 自分では年を取ることには何の抵抗もできない。 生きている限り。 人は多くの事に対して、抵抗ができない。 生まれることに対して。 死ぬことに対して。 その他、あらゆる要素が、1人の人間にまとわりつき、それに抵抗ができないでいる。 そういうものに、人は悩む。 生まれながらにして、人は悩むようにできているのだ。
何故生まれてきたのか? 何故死ぬのか? 常に何故?を考え、そしてそれに対して対策を立てようとする。 それでも結局わからないから、少なくともその恐怖を和らげようとして、死に向かう準備を人はする。 一体何のために生きているのか? 死ぬために生きるのか? いや、生きることは、死ぬためでさえないだろう。 生とは、独立した存在なのだ。 生と死を対のものとして考えることは僕にはできない。 死を認識することは、それを迎えた生命体にとってはできない。 それは、生きている人間か考えた、そういう状態に対する名前である。
死んだ人間は、自分が死んでいるとは思わない。 いや、思えない。 人は、勝手だ。 ここで言う<人>というのは、一般的に言えば生きている人間のこと。 人は、勝手に死んだ人間の事を死んだのだと言う。 そう決め付ける。 そう言うと、僕はきっと人から変な奴だと思われるだろう。 狂信家だと言われるだろう。 死んだ人間を死んだのだと思わないからである。 ただ、誤解しないで欲しい。 一般的に死んだ人間の事を、まだ生きている(精神的に)とは思っていない。 死んでいるも何もないのだと思っている。 つまり、敢えて先人の生み出した言葉を使うなら、それは<無>である。 所謂<死>というものなんて、存在しないのではないか?
人は、明らかに<死>なるものを怖れている。 だから、そんな未知ではっきりとしない、生だの死だのという考えさえも持てない世界に人が向かった状態のことを<死>と名づけたのだろう。 得体の知れないものに名前をつける。 得体の知れないものを、はっきりさせようとする。 弱い存在だ。 実に弱い。 人が生きているというのは弱い。 ただ、弱いのが悪いとは言えない。 そう定義できない。 そんなことは、どうでもいいこと。
わけもなく生まれ、わけもなく生きる。 そんな生命体たち。 そんな人間たち。 そんな僕。 僕には僕である理由がない。 だけど、僕は僕だ。 こういう僕。 こう考えているのも僕。 そしてきっとこう考えているのは僕だけ。 そう思うのは僕で、そう思えるのが僕。 どこからどこまでが僕? きっと生まれてから死ぬまでが僕。 そう考えるのも僕。 僕、僕と言っているうちにだんだんつまらなくなってくる。 僕が何で、何が僕か、なんて・・・そう、どうでもいい。 話が随分と長い間飛んでしまった。
そう、思い出した。 僕は、白いドレスの、その目立つ女の子・・・彼女を見る度、不思議になる。 彼女は本当にそこにいるのか・・・と。 は、いいや、そんなこと。 本当なんて・・・ 真実なんて・・・ 僕が何であるのかどうでもいいように。 彼女が変わっていること、彼女が何であるのかということ。 すべて考えない様にしよう。 そう、それを知ることを僕は怖れている。 彼女が白いドレスを着ているのが良い。 小学生かどうか疑わしいのも良い。 すべてがいい。 そう思える。 それが良い。 とにかく良い。 理由なんてない。 あったかもしれない。 でも、忘れてしまった・・・。 良いなぁ、あの子。 一体何が良いのか? 見ているだけで、良い。 ずっと見ていたい気もするけれど、それは叶わないこと。 そんな気がする。 僕はしばし、白いドレスの女の子に名前をつけないでおこうと思う。 あぁ、きっと僕は彼女を怖れるのを怖れている。 怖れた瞬間、彼女が消えてしまうことを・・・。 弱い。 実に弱い僕。 弱いのが悪いのか? それは僕にはわからない。
―END―
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