「雨劇」
それは昨日のことだった。 僕は大学まで、毎日二時間かけてエンヤコーラーと行くのである。 その道のりは、<自転車30分>→<地下鉄20分>→<名鉄50分>→<徒歩15分>と いった具合で大学へ着く。地下鉄ではたまに小説なんかを読んでいる。 名鉄ではどうも小説を読む気にはなれず、ただひたすらグ−グーと眠りこける。
その日の朝、ベッドの上で目が覚めた僕は、耳元で嫌な音がするのを確認した。 どうやら雨の様だ。しかも二日目。雨が降るといろんなものが湿ってしまう。 パリパリだったものが、しなーっとしてしまう。あの「しなーっ」がなんとも嫌である。
そんな事を思いながらも、いつの間にか自分の身は大学の方へと向かっていく。 何故かと言うと、それが僕の日課だからだ。 体が意識とは関係なく、その慣れ親しんだ日課通りに事をこなしていくのだ。 別に大学に行きたくないと言っている訳ではない。 僕はか弱くも、通常自転車でいくところを雨の日に限ってバスで行くことにしている。
その日もその例に漏れることなくバスに乗った。整理券を取った。席に着いた。 …しばらくして何気に定期入れを確認したその時、ある事に気がついた。 あっけなくも地下鉄の定期を家に忘れてしまっていたのでR! 頭が締め付けられるようだった…もぐら叩きのあのハンマーで、自分の頭をバカバカ叩いてやりたい。 あの穴全てから僕がランダムに出てきたとしても、必ず全部逃すことなく叩いてやるぞ!…と思えるくらいに。
もう二つ、その時の心理状態を明確にするために、記しておかなければならないことがある。 出足が遅かったため、最初の授業に間に合うかどうかということも気になっていた(結果、ギリギリセーフ)。 おまけにその日授業で発表するハズの課題をすっぽかしていた。 それにより、その授業自体をすっぽかすことを心に固く決めこんでいた。 そんな訳で、バスを降りる頃には、精神的にボロボロであったのは言うまでもない。
時は流れて帰り道、僕は家路を急ぐ(最近、やたらと肩がこっている)。 気分はほぼ変わらぬまま、それでも仕方ないや!と開き直り、 でもなかなかそういう方向に気持ちを持っていけず、やっぱり変わらぬままに… もうすぐで酔っ払ってもいないのに千鳥足になりそうな足踏みで…名鉄の電車を降りた。 「あぁ、また260円余分に地下鉄代を…あれ?あれあれ?? んー、こっちには無いなあ、こっちにも無い。サイフには…ない。明らかにどこにもない!」 名鉄の定期を落としてしまった。ガビーン!!!!!
Z:「あの、ちょっと切符を落としてしまったんですが…西可児から乗って…」 窓口:「値段はいくらのを購入されましたか?」 Z:「アッ、710円で…」 窓口:「では交通調査カードはもってます?」 Z:「あ、はい。」 その日は丁度、そんなカードを乗る時に配られていた。それが西可児から乗って来たという証拠になった。 窓口:「ほんとは駄目なんだけどね、今日はこれを改札口にいる駅員に渡してください」 Z:「あ、ありがとうございます」
そんなわけで、西可児から名古屋駅までの運賃はなんとか免れた。 それにしても明日からどうすればいいんだ!?片道で710円である。 あと1ヶ月は使える代物だった。頭は同じ疑問をグルグルと回しつづけていただけだった。 明日早速定期券を買うしかない…「あっっ!!!」ここでまた壁にぶち当たった。 二週間前から無くしていたのだ、学生証を…もう、ため息もでない。
地下鉄を降りた。雨は依然として降りつづいていた。 僕はバスの停留場から少し離れた所にあるベンチに座った。そこには上に屋根があった。 このベンチから再び立ち上がることができるのか? はたまた、このままずっと座りっぱなしのままでいるのか? そして雨はいつまで降りつづけるのだろうか? もうすぐバスはやって来る。そろそろバス停に行かなければ… 重い腰はなんとか持ち上がった。そして傘を広げる必要があったので、雨に濡れないように傘をさした。 「あれっ?」
次の瞬間、奇跡は起った! 何かがひらりと地面に落ちた。どうやら傘のどこかに挟まっていたのだろう、それは名鉄の定期だった。 体がフッと軽くなった。僕はしゃがんでそれを拾い、バス停に急いだ。 早く学生証を再発行せねば。課題は遅れてでも出さねば。 ところでこの雨はいつ止むのであろうか?
−END−
[ぢぇんのコメント] Zらしいボケですね。さすが、自分でネタを作る男・・・
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