実家で二晩過ごした後、彼と一緒に彼の住む地に向かった。
毎晩晩酌を彼として楽しそうだった父親(息子とする晩酌は格別なんだそうだ)も、構わないからと言いながらも朝食ぐらいは作ってくれた母親も、家を出る時は寂しそうだった。(彼・談)
私は二人で乗る新幹線も、高速バスも初めてで、同じ土地に共に向かいながら、しみじみと「この人と夫婦になるんだなあ」と実感したりした。←遅い。
ここまで遠く一緒に来ると、ちょっと連れ去られた感があるね、と彼に言ったら、じゃあ俺は連れ去った感やね、と言って彼が笑った。
幸せな筈。私は幸せな筈なのに。
バスの中でずっと、考えていた。
見る角度によっては好みじゃない(←まだ言うか)顔、時々女っぽいというか、優し過ぎる言動があってそれを冷静に「うわ苦手だ」と思ってしまったこと。
それから思い出そうとする。前の人との比較。
私は前の人のどんな所が好きだった? 今の人に感じているこの違和感は何?
けれど、前の人のどこが好きだったかなんて思い出せなくて、ただ物凄く好きだったことだけ覚えていて、それが一層不安を掻き立てた。
どこが好きかなんて、ぱっと出ないのが本当の恋だなんていう言葉が頭を離れない。
しまいには、私は本当に好きなのは前の人で、今隣で眠っているこの人のことは優しくされたから好きなんじゃなかろうか、とまで思った。
本当にこの人のことが好き?
そう問い掛けてみても分からなくて、ただ、彼の横顔は結構かっこいいんだよなあなんてぼんやり見てた。
この人と結婚してちゃんと幸せになれるのかな。私はこの人のこと心からちゃんと好きかな。もし、好きじゃないのに結婚したらダメだよな。けどもしかしてこれはマリッジブルーなのかな。前の人に動揺してるのか、それともマリッジブルーなのかそれすら分かんねえな。
気持ちは気持ちだから仕方ない。そう思うけれど、でも私はしっかり考えなくてはと思った。
このままでは何かあった時、気持ちだけでなく態度もふらついてしまいそうな危険があると思ったから。
それはもう、どちらにも中途半端に失礼だし、大体そう思うことが自惚れてる。
まさか私が元彼と浮気とか、とふと考えて冗談じゃないと、そんなことしたくないしこの人を絶対に傷付けたくない、傷付けちゃいけないと思って、抱かれるのは彼がいい、他の人じゃ嫌だと再確認した。
そうして二人の暮らす新しい家のある地に着いて、バスに酔った(←天罰)私を優しくいたわってくれた彼と手を繋ぐ。
幸せなのに、この人だけでいいと思うのにどうして。
その晩は久々にフラバが起きて、泣きながら彼の胸で眠った。
で、朝。
昨日の感傷は何処へ。というぐらいあっさり風味な気分で、目が覚めたら彼がほぼ支度を終えて私を見ていた。
「ぼむはゆっくり寝ててな」
と優しく髪を撫でる。
ごめんなさい、これ以上の人私にはいません。
そんなの分かってるのに。一時の感傷に流されてこの人を失ったら、一生後悔するどころじゃ済まないの、分かりきってるのに。
錯綜して迷走して、それでもやっぱりたどり着くのは、この腕しかない。
辛うじて玄関で彼を見送りながら、そう思う10月。←いいから早く起きろ。
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