矛盾スルニモ程ガアル
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2003年06月26日(木) 結果。

〜結果です。今日の出来事は、小説風でお送りいたします〜


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 彼の家に着いた時、時計の針はpm5:00ちょっと前を指していた。
 少し遅れると連絡があったので、私は先に返しそびれていた合鍵で中に入る。3週間ぶりの彼の家なのに、驚くほど違和感を感じない。それだけこの場所を見慣れていたのだと思うと、少し胸が痛んだ。

 よりを戻したい。

 私はその言葉を言うためだけにここに来た。いや、本当はもっと言いたいことがいろいろある筈なのだが、結局集約してしまえばこの一語に尽きる。彼が今私をどう思っているかは分からないし、本音を言えばとても不安だ。
けれど私はどんな結果になってもそれを受けとめ、後悔すまいと決めていたので、ある種の決意をもって家に留まることができた。

 言いたい事を反復しながら、私は手持ち無沙汰ぎみに彼の帰りを待った。と、玄関のドアの向こうから人の足音が聞こえた。彼だ。
 がちゃりとドアが開いて、
「早かったね」
 と彼が顔を出した。
 私はどんな顔をすればいいか分からなかったので、「うん」とだけ笑顔を作りながら答えた。彼はそのまま家にあがると、「ご飯食べていくでしょ? ちょっと用意しておくよ」と言いながら台所作業を始めた。
「いや、食べないよ」
「何で? 食べていきなよ。ちょうど二人分なんだよ。豆腐グラタン」
「ううん、いいよ」
「そう?」
 少し惜しむような顔をした後、彼は台所から私のいる部屋の中に入ってきた。彼の住む1Kの学生アパート。この彼の部屋で一体私達は、どれだけの時間を過ごしただろう。そう考えるとまた少し切なくなって、私は気付かれないようにそっと部屋に入る彼を眺める。
「スナック菓子しかないけど、食べる? もう少しでお茶が入るから、ちょっと待ってな」
 部屋の中に二人、向き合って座る。彼がお菓子をすすめてきた。こんな気持ちで菓子も何も無いのだが、有難く2、3個いただく。
 彼はそのまま、本の新刊がどうとか、課題がどうとか他愛のない話をし始めた。私は何だかものすごく不安になった。
 あまりにも彼の態度が普通すぎて、あまりにも只の友達に接するかのようで、私のことはもう気持ちの整理がついたのではないかと思ったのだ。けれど怖くてそれは言い出せなかった。それよりもまず自分の気持ちを言ってしまおうと思い、私は口を開いた。

 別れを言われた原因を考えたこと。その原因を取り除く努力をしようと思ったこと。やり直すとしたら自分はこういう風に変わるから。だから。
「もう一度やり直したいって、言いにきたの」
 彼は少し目をぱちくりさせて、 
「まさかそんな話だと思わなかったから…何も考えてなかった」
 と、微かに笑いながら言った。
 それから相好を崩して、
「えー、もう友達に別れたって言っちゃったよ」
 と苦笑した。
 その態度は私に期待を抱かせるのに充分だった。「またよりを戻したって言わなきゃいけないのかなあ」というようなことを言っているように聞こえたのである。けれどあまりにも彼の様子が普通なので、私はもう彼の中では答えは出ているのではないかと恐れた。平静な彼の態度は…よりを戻したがっている人間のそれには見えない。彼のベクトルはどっちを向いているのだろう。私には知る術がない。
「今日すぐには…結論出せないよね」
「うん。何も考えてなかったから…」
「ねえ、今、貴方はどう思ってるの?」
 私は少し身を乗り出す。もうこれ以上彼の気持ちを聞かないままには、耐えられそうに無かった。
 彼は私をまっすぐに見た。私は彼の次の言葉を息を呑んで待つ。
「好きなのは今でも好きだよ。けどまだよく分からない。何も考えてなかったから。分からない原因ぐらい考えときゃ良かったね、うーん。けど、一応よりを戻さない方向で、考えると思う」

 胸に鉛の球を落とされたようだった。ずしん、とこたえる衝撃に私は泣きそうになりながら、それでも一生懸命彼を見た。
「何ていうか、君の事は好きなんだけど、今は付き合うとかが考えられないっていうか。カレーは好きなんだけど茶色いものはダメ、みたいな」
「ああ、うん。私のことは好きだけど、恋愛自体が今はダメなのね」
「そう、そんな感じ。いや違うかな、いやそんな感じ」
「うん。分かった。…うん。分かった」
 自分に言い聞かせるように、私は分かったを繰り返した。もう駄目なんだなというのが実感として少しずつこみ上げてくる。
 その時になって初めて、私はずっと「よりを戻せるのではないか」と期待していたことに気付いた。しばらく離れていたから、彼の気持ちがもう少し私を見ていてくれるのではないかと知らず知らずいいような可能性を考えていたのだ。だけど彼によりを戻すつもりはない。目に涙が浮かんでくる。それを必死に瞬きでカモフラージュしながら、私は帰ろうと準備を始めた。
「夕飯食べていかないの?」
「うん。もう帰るね」
「食べていきなよ」
「うーん…いや、やっぱり帰る」
 そんな会話をしながら立ち上がる。彼も私につられて立ち上がる。
「ねえ、最後に、ぎゅってして」
 私は「抱きしめて」と彼にお願いした。キスして、とは言えなかった。ただ最後に触れ合いたかった。

 彼が、私を見た。



(続く)


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