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Spaghetti alle Vongole Bianco(上方風味) - 2008年08月30日(土)

「居てるかいな」
「ああ、誰かとおもたら、おやっさんですかいな」
「寝間の中から首だけ出して『おやっさんですかいな』やあらへんで、最近どないしとんねん。今朝、お前ンとこのおかはんがうちにきて『うちとこの息子が最近元気ないみたいや』『仕事もここ一週間ほど休んでるようや』『親が出て行ったらあの子は刃向かうばっかりで言うこと聞けヘンさかい、おやっさんがいってちょっと言い聞かしてやってくれ』こう言うもンやから、覗きに来たンや。」「どやねん、最近」
「ああ、面目ないことで、別に風邪引いたとか、怪我したとかではないんですけンど。気がふさぐっちゅうか。」「そうか、体にべっじょないみたいでええこっちゃ。」
「ええんですか!!」
「喜ぶンやない。ほんまに、ええ年して塞ぎこんどったらあかんがな。何に煮詰まっとるンや。」
「え、何も煮てませんが。」
「いやいや、そうやってふさぎ込んだり、切羽詰るのを最近は『煮詰まる』言ううんや。」
「睡眠のほうは、ちゃんととっとるんか?」
「スイミン。それは中国かどっかのまじないのことで?」
「あほかいな。ちゃんと夜寝られるンか?」
「ああ、それは夜といわず昼といわず、そう、20時間くらい。」
「寝すぎやがな」
「食べるほうは、きちんと食べとんのか?」
「おあしもないんで、日に3回水飲んで...」
「言わんこっちゃないがな。」「食べるもの食べんと、力はいれへんがな。」「そんなことやろうと思うてたんや。今日はうまいもん食わしたるわ。」
「を、なんです?」
「布団から飛び出してきよった。げんきんな奴や。まぁ、ええわ。」
「これや」
「なんです?」「石ころですか?」
「あほな事いうな、石ころ食わしてどうすんねん。あさりやがな。」「今朝方、あさり売りが家の前を通ってたんで、晩御飯にでもしようとおもて、砂抜きだけしとったんや。」
「ちょうど、カカの分まで買うたんで、ちょうどええわと手土産にもってきたんや。」
「...」「...」「ほんに...」「とれとれは硬い」
「生で食うてどうすんねん、吐き出し吐き出し」
「せっかくですが、私、生のあさりは口に合いません。」
「当たり前やがな、料理したるさかいちょっとまっとき。」
男やもめに蛆がわくちゅうなことを申しますが。台所もえらい有様になっております。このおやっさん、台所に立ちますというと、手際よく洗い物をこなしてしまいます。
鍋を取り出して、お湯を沸かしますというと、その間にあさりを水洗いして、ザルに上げます。お湯が沸くのを見計らって、パスタを鍋に入れます。
「トントントン」まな板を前に包丁を器用に扱いまして、ニンニクを刻みます。
「おやっさん、器用なもんですなぁ」
「そやろ、人は見かけによらんと昔から言うたある。」
「どこで習いはったんですか」
「若いとき海外で料理の修業しとったんや、そこでな。」
「へぇ、海外てどこです?」
「小豆島や」

おやっさん、ふところから小さいビンを2本取り出して流し台に並べます。
「その透き通ったほうはなんでんの?」
「白ワインや」
「飲めますか?」
「これだけ飲んでも、うまいで」
「ああ、ほんにうまいうまい」
「なにすんのや。あー、なんも言わん間に半分飲んでしもうて。ほんまに油断もすきもない奴や」
「んで、こっちの緑色のは」
「これはオリーブオイルや」
「飲めますか?」
「飲んで飲めんことは...」
「あー、ぺっぺっ」
「なにすんのや。オリーブオイル飲んでしもたがな」
「あ、口ン中べたべたする。これは、白ワインで口ゆすがんと...」
「何すんねん。あっち行って座ってまっとき」
このオリーブオイルをば、フライパンに入れまして、ニンニクと唐辛子を入れまして、とろ火にかけます。
狭い家のことですから、ええにおいが家中にあふれんばかり。
「ええにおいですなぁ」
「いつの間にこんなねきにきとんねん。」「ええ年して、よだれたらしてどうすんねん。」「ほんまにあっちいてすわっとき。」
フライパンに先ほどのあさりを入れまして、少々火を強めます。ころあいを見計らって、白ワインをフライパンに入れます。
じゅじゅじゅー。
「わぁ」

うしろで音にびっくりしたのか、ひっくり返る音がいたしますが、おやっさん、そんなことには気も留めず、フライパンに蓋をいたしまして。おもむろに鍋のパスタをザルに上げます。
フライパンの中で、あさりが口を開きますというと、その中にパスタを入れます。手つきも鮮やかにフライパンを振りますというと、きれいにパスタが宙を舞います。
先ほどの洗い物のなかから皿を取り出しまして、きれいに盛り付けます。
「さあできたで」
「これなんちゅう料理ですのん」
「スパゲッティ ボンゴレ ビアンコ ちゅうものや」
「ああ、覚えられませんが、うまいのはよぉ分かる」「...」「ああ、うまい」「...」「白ワインものんだろ」「...」「ああ、うまい」「...」

「んでなぁ」「これお前とこのおかはんから預かってきた」「どうせ懐も淋しゅうなっとうやろうから、これもっていったてくれと。」「おやっさんからやったら受け取るやろうと。泣いとったで、この親不孝もんめが。」
「...」
「...」
「...」
「わぉー」
「なんちゅう泣き方すんねん」
「わぉー」
「大声上げて」
「わぉー」
「ええ年して、近所迷惑やさかい、口閉じて静かにせんかい。」
「どうしても口が閉まりません。」
「なんでや。」
「食うたもんがあさりだけに、煮詰まると口が開きっぱなしになります。」


...




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