2004年03月17日(水) |
グローブにまつわる小さな記憶 |
小学校高学年の頃だったか、中学校1年の頃だったか。
ある夕方、いつものようにグローブと軟式野球用の球(軟球と呼ぶ)を持って遊びにでかけた。その日は一緒に遊ぶ近所の友達も見つからなかったのか、近くのアパートの壁にボールをぶつけてひとりでキャッチボール。
その少し前、いつもの夏と同じように隣に住む幼馴染みに「盆踊りに行こう」と声をかけたら、今でもよく覚えている、(こいつはなにをいってるんだもうおれたちはそんなとしではないのに)という表情と「行かない」という言葉が返ってきた。
「なにかが変わる」「なにかが終わる」などということが自分に起こるなんて想像もしてなかったけど。なにかとてもいやなことが自分に起こりそうな、なにかとても大切なことが自分から永遠に去っていきそうな、そしてそれはどう抗っても無駄なことなんだということが、少しずつ。
楽しいのか楽しくないのか自分でもよくわからないまま壁にボールをぶつけ続けているとき、突然、声が降ってきた。
「ぼく、ちょっと」
びっくりして振り返ると、見知らぬおじさん。声も出せないままでいると、そのおじさんが思いもよらぬことを言い出した。
「ぼくがもってるそのグローブ、値段はいくらぐらいするのかな?」
そのおじさんがなにを言ってるのかはもちろんわかったのだけど、でも、そのおじさんがいったいなにを言おうとしているのかは、まったくわからなかった。
「わからない」
やっとのことでそれだけ口から絞り出すと、おじさんは何も言わずどこかへ歩いていった。
大急ぎで家に帰った。少し後で、そのおじさんが大事に思っているのであろう男の子のことに想いを馳せた。自分がなくしつつあるものをすべて持っている、男の子。
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