表面張力(仮)

　ウインドウに表示された本の題名を見て、意識がすとんと静かになった。
　ある人の日記に書かれていたそれは、大学院にいた当時、もうすぐ日本を離れる奴が私に贈ってくれたものだった。君に必要だと思って、と言って彼は目の前でその本を買ってくれた。それは今も私の手元に置いてある。
　もう一度読み直した方がいいのではないだろうか。私に必要なのはそれじゃないのか。

　一年をかけて何もしていない。そのことに後ろめたさも感じない。私は何も感じない。この状態に疑問を覚えない。そしてそれを誰にも話せない。私は夫をだましている。
　それじゃだめだろう。
　開き直るな。居直るな。考えることを、動くことを止めるな。
　そう考えて今は試験を受けることにしているけれど、落ちたらすぐに探そう。ていうか募集人数から考えて落ちるだろうとは思っているから（無駄な諦めはしていないけど）、そこはぐずぐずしないで、さっさと探そう。

　自分の実力が本当はたいしたことないことだとか。
　自分が夢想していることは単なる逃げだということや。
　わかったような言葉を使っているけれど実は何もわかっていないことや。
　一つ一つを認めるために何年かかったことだろう。そしてこれからも繰り返し繰り返し、忘れては認めていく。私は自分に都合良くできている。そのことだけは忘れずに。