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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
ボルボレースの雑談

今週はこれといった話題が無いので、雑談にお付き合いください。
昨日は夜8時になって、今日がボルボ・オーシャン・レースの第3レグの放映日だと知って、大あわてでTVをつけました。
第2レグが大河ドラマの裏だったので録画してそのまま見れずにいたので第3レグの放映日が未確認だったんです。

とりあえずまず先に、第4レグ(中国・海南島〜ニュージランド・オークランド)の放映は、
3月31日(土)19:00〜NHKBS1
となりますので、今度こそ忘れずに。

まぁそれで、ボルボレースの第3レグ、途中から見たので後半のみですが、アブダビ〜海南島のインド洋、南シナ海編は最初から最後まで見ることができました。
途中、マラッカ海峡を通過するのですが、ここでは各艇とも自動船舶識別装置(AIS:Automatic Identification Systems)をオンにしなければなりません。
なにしろマラッカ海峡は世界一混雑した航路…と話には聞いていましたが、実際に見ると、凄いというより何より、ここでヨットレースやるの間違ってない?と思ってしまう。
なんだか東京マラソンが新宿駅の構内を走る抜けるような感じと言いましょうか、あの日にマラッカ海峡に居合わせた貨物船や漁船はかなり迷惑したんじゃなかろうか?
ボルボ艇の一隻が漁船の網を引っかけてタイムロスしたそうですが、漁網を切られた漁師さんはちゃんと賠償してもらえたんだろうか?とか心配になってしまいました。

マラッカ海峡のAISが画面に出ていましたが、もんのすごい混雑状態。
AISの存在は、1月21日の日記のロイズ社の記事で知りましたが、日本語のHPからも見ることができるのだと先日教えていただきました。

ライブ船舶マップ
http://www.marinetraffic.com/ais/jp/default.aspx

ここで見られるのは沿岸のみですが、帆船来航時に入港情報を知るのには役立つかもしれません。


2012年02月26日(日)
地中海に沈むネルソンの剣

トラファルガー広場のネルソン提督像、提督が左手に握っている剣は、今はレバノン沖の地中海の底に眠っているという話、
恥ずかしながら私は下記の記事で初めて知ったのですが、

Nelson's £1 million wsord is discovered at the bottom of the Med
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2093409/Nelsons-sword-hidden-looters-diver-discovered-wreck-HMS-Victoria.html

19世紀末の1893年、ネルソンの剣を所有していたのは、提督を崇拝するSir George Tryon海軍中将だった。
Tryon中将の座乗するH.M.S.Victoriaは、1893年6月、レバノン沖の演習中の事故で僚艦のH.M.S.Camperdownと衝突し沈没、中将が保有していたネルソンの剣もそのときに艦とともに沈んだという話です。

この沈船、H.M.S.Victoriaが海底から発見されたのは2004年、
以来調査が行われていますが、
ダイバーのマーク・エリオット氏は先日「Tryon中将の公室と思しき船室からネルソンの剣を発見した」とプリマスで開催された国際難破船会議(International Shipwreck Confrence)で発表した。
エリオット氏は「この剣が当局に押収されるのは不本意だが、英国以外に流出することは避けたい」と語っているそうです。

沈船からの引揚物の所有権については、先週ご紹介したスペイン海軍の財宝船のようにいろいろ問題が発生するようで、
エリオット氏が地元当局(local authorities)という表現を使用しているということはこの沈船、レバノンの領海内にあるのかもしれません。

この件に関し英国防省のスポークスマンは、「英国海軍はネルソンに関する情報を歓迎する(thr Royal Navy would "welcome" any information about nelson)」と答えた、と記事にあります。
なにか微妙な表現。

1893年当時、ネルソンの剣を保有していたSir George Tryon海軍中将は、信号伝達方式など先進的な改革をいろいろと推し進めてきた人物で、尊敬するネルソンの様々な品のコレクターとしても有名だったとか、
Sir George Tryonが命を落としたH.M.S.VictoriaとH.M.S.Camperdownの衝突事故というのも、調べてみるといろいろと興味深いのですが、今回の本筋からははずれますので、ご興味のある方は下記をご覧ください。

ヴィクトリア(戦艦)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A2_%28%E6%88%A6%E8%89%A6%29

実は以前にマルタ島の海事博物館を訪れた時に、この衝突事件の後に開かれた軍法会議の絵というのを見たことがあります。
軍法会議はマルタ島に繋留されていたH.M.S.Hibernia(1790年建造の110門艦)の大キャビンで行われていて、もちろん19世紀末のものなので海洋小説で読み慣れた時代のものとはかなり異なるのでしょうけれど、雰囲気をつかむのには参考になりました。

上記日本語Wikipediaからリンクしている原語(English)版のWikipediaには、このときの軍法会議の詳細も詳しく書かれていますので、興味をお持ちの方は英語版もお読みください。


2012年02月19日(日)
アメリカのドラマの話(番外)

私が海洋小説と同じくらい買い込んでいる早川や創元の翻訳小説は、ハヤカワで言えばFT、つまり翻訳ファンタジーですが、その関連で先週、友人から「マリオン・ジマー・ブラッドリーのダーコーヴァがドラマ化!」というメールが飛び込んできました。

マリオン・ジマー・ブラッドリーは数年前に10年ほど前に69才で他界されたアメリカの女性SF/FT作家で、アン・マキャフリーやアーシュラ・ル・グインなどと同世代。日本語訳はハヤカワFTと、創元文庫で出ています。
ダーコーヴァ・シリーズは1980年代半ば〜1990年代初めにかけて創元から翻訳されてもう絶版になっている、かなり古いシリーズで、ただ私が個人的に好きというだけで海洋小説とは何のかかわりもないため、ここに持ち込む話題でもないと思っていましたが、

ドラマ化を仕掛けたプロデューサーのインタビュー(下記の英文記事に引用されています)を読んでいたら、
「ダーコーヴァは30年前に出版された話だが、今放映しても「ギャラクティカ」や「Game of Thrones」のファンの心を捕らえると思う」
と発言していたので、いろいろちょっと驚きました。
この発言の記事は下記。

That Darkover TV show we always dreamed about is finally happening
https://erthstationone.wordpress.com/2012/02/14/that-darkover-tv-show-we-always-dreamed-about-is-finally-happening/

「Game of Thrones」は、ハヤカワFTから「七王国の玉座」として翻訳が出ているシリーズですが、これがアメリカでTVドラマ化されて去年放映されていた!という情報は入手しそこねていました。
これ見たい!ぜひ日本でも放映してください!どこかのTV局さま(できればケーブルじゃないところ)>

早川書房のサイト「七王国の玉座」シリーズ
http://www.hayakawa-online.co.jp/SOIAF/

Game of Thrones (TVドラマの紹介サイト)
http://www.hbo.com/game-of-thrones/index.html

そう、「Game of Thrones」の製作は「ROME」を製作したHBOなんです。ダーコーヴァも同じHBO製作、ということは、かなりしっかりした作品が出来上がると期待して良いのではないでしょうか?

それで問題のプロデューサーの発言なのですが、ダーコーヴァが「Game of Thrones:七王国の玉座」のファン層をとらえる、というのは容易に理解できる…ダーコーヴァも七大氏族の統治だから。
でもダーコーヴァとギャラクティカの共通点って?

まぁダーコーヴァはロスト・コロニー・プラネット(人類が移民した後、再び宇宙に上がる手段が途絶して地球圏との交渉が絶え独自の文化を発達した惑星)だから、ジャンルはSFなんですけど、宇宙空間を航行していく話でも戦艦や戦闘機が出てくる話でもないので、いったいどこがギャラクティカと共通するのか?と悩んだ挙げ句、類推したのは、
ひょっとして父と子のドラマ…かな?アダマ艦長と長男で飛行隊長のリー<アポロ>の物語、あれに近いものは確かにダーコーヴァにもあるなと思い立って、
今後は注意深くコトの進展を見張っていこうと思います。
ダーコーヴァは海洋小説のジャンルではありませんので、結果はいずれアメリカで放映が決まった時にでも(いつになるやらわかりませんが)


2012年02月18日(土)
スペインの財宝船

「アメリカのトレジャーハンターが引き上げた、かつて英国海軍が沈めたスペイン艦の財宝は、スペイン政府に属するものである」との判決がフロリダの裁判所で言い渡されました。

もと記事はこちら、
Treasure from sunken galleon must be returned to Spain, judge says
http://www.guardian.co.uk/world/2012/feb/01/treasure-trove-galleon-returned-spain?newsfeed=true

この「かつて英国海軍が沈めたスペイン艦」とは、1804年10月5日のサンタマリア沖海戦で撃沈されたスペイン艦ヌエストラ・セニョーラ・デ・ラス・メルセデス。
とフルネームを聞いてもピンとこないかもしれませんが、「勅任艦長への航海」(下)巻397ページをめくってみてください。
>「船団が運んでくるこの莫大な量の金銀がなければスペインは破産
>状態になると言っていいでしょう。船団はスペイン海軍のフリゲート艦
>で構成されています。40門艦のメデア号、34門艦のファーマ号、
>クララ号、メルセデス号…」
このメルセデス号のことなんです。

パトリック・オブライアンの小説ではこの情報、スティーブン・マチュリンが探り出したことになっていますが、セシル・スコット・フォレスターの「砲艦ホットスパー」では単にマドリッドの密偵になっています。
ともあれこの情報を得たコンウォリス提督はすぐさまインディファティガブル号(あのインディですが、艦長はもうペリューではなくグラハム・ムア)以下の英国艦をスペイン沖に派遣して待ち伏せし、攻撃を仕掛けました。
結果、メルセデス号は火薬庫が爆発して90万ポンド相当の金貨銀貨とともに沈没、クララ号とメデア号は降伏、ファーマ号は逃走しましたが、ライブリー号が追いかけて拿捕しました。
これがサンタマリア沖海戦の概要です。

というと、この時代ではよくある話にすぎないんですが、サンタマリア沖海戦のちょっと複雑なところは、10月5日時点ではまだスペインとイギリスは戦争状態になかったということで、ゆえに、「砲艦ホットスパー」19章(旧版では381ページ)で、
>「つまり、開戦ということですね」
というムアにコンウォリスは首を振り、
>「そうではない。わたしはその輸送艦隊を捕獲するために戦隊を派遣するが
>開戦ではない。先任士官であるムア艦長は、針路を変更してイギリス領の港
>に入るようスペインの艦隊を説得するよう指示されるはずである。入港したら
>財宝を降ろし、艦隊は釈放される。財宝は押収されない。戦争が終結した時
>にスペインに返還されるという約束のもとにイギリス政府によって保管される」
というややこしい状況にありました。

まぁ女王陛下の海賊たちがスペイン船相手に好き勝手できたドレイクの時代とは異なり、19世紀になると戦争もルール重視になりまして、イギリスも開戦前の財宝奪取…じゃない「保管」にはいろいろ理屈をつけざるをえないわけで、でも実際、スペイン海軍が素直にそんな「説得」に応じるはずもなく、どんばちの挙句に90万ポンドの金銀は、イギリスに「保管」の後「返還」されることなく、その場で海の底に沈むことになりました。

それから200年以上が経った2007年、アメリカのトレジャーハンター、というか正式にはフロリダに本社を持つサルベージ会社オデュッセイ・マリン・エクプロレーション社がこの沈船の場所を特定し、密かに引き揚げを行いました。
沈没箇所は、スペイン沖と言ってもスペイン領海内ではなく公海上であったため、オデュッセイ社は発見者としてこの金銀の所有権を主張したわけですが、スペイン政府が異議を唱え、判断はアメリカの裁判所にゆだねられることになりました。
フロリダ地方裁判所の判断はスペインに所有権を認め、これを不服としたオデュッセイ社が控訴していましたが、上位裁判所の判断もスペイン政府の所有権を認めるものとなりました。オデュッセイ社はさらにワシントンの最高裁判所に控訴しましたが、この控訴も棄却されました。

かつての90万ポンドの金貨銀貨は、現在の時価では6,292万ポンドとなるそうです。
これで現在のユーロ危機がどうこうなる額でもありませんが、財政危機のスペイン政府としては座視できない状況でしょう。
コンウォリス提督も戦争が終結したら「返還」すると言っているのですから、戻ってこなければ納得できないでしょうし、それをちゃっかりアメリカの会社が引き揚げて持っていってしまうのは、下手をすると国際問題にもなりかねません。
現代は200年前よりさらに世の中が複雑になっておりますので。

来週は引き続き、別の沈船(今度は英国艦)の話題の予定です。


2012年02月12日(日)
エジンバラでコクラン提督展

この情報、1月31日にパトリック・オブライアン・フォーラムに書き込みがあったので、私も今週知ったばかりなのですが、
昨年10月から、再来週末2月19日まで、スコットランド・エジンバラ市のスコットランド国立博物館で「コクラン提督展」が開催されているのだそうです。
そんな、あと2週間で終わりという今になってという感じですが、サイトを見るだけでもなかなか楽しいので、ご紹介いたします。

National Museum of Scotland
http://www.nms.ac.uk/our_museums/national_museum/exhibitions/admiral_cochrane/about_the_exhibition.aspx

トマス・コクラン提督(1775-1860)は、ナポレオン戦争時代に活躍したスコットランド人の提督(海軍少将)、セシル・スコット・フォレスターなどの小説のモデルとなった人物です。
…というか、あの時代の海軍を舞台にした一連の小説の主人公が奇策を講じたり、上官と喧嘩してしまったり、決闘しかかったり、それぞれにムチャな性格をしているのは、この人に遠因があるのでわ?と思われる人物ですので。

ここ2週間の間にエジンバラに行かれる予定のある方は是非。


2012年02月05日(日)