HOME ≪ 前日へ 航海日誌一覧 最新の日誌 翌日へ ≫

Ship


Sail ho!
Tohko HAYAMA
ご連絡は下記へ
郵便船

  



Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
コランタン号の航海 第2話更新

「コランタン号の航海・アホウドリの庭」第二話が更新されました。
http://www.shinshokan.com/webwings/title05.html
上記アドレスから「最新話を読む」をクリック。

今月はずっと陸上のお話です。
第一話から続けて読み直したいところですが、ウェブマガジンってこういう時ちょっと不便ですね。
見開き2ページしか画面に出せないというのがなんともはがゆいというか、
早く単行本にまとめていただきたいです。


2011年08月28日(日)
番外:SHERLOCK

現地在住の後輩が「日本で放映があったら是非みてください」と言ってた「SHERLOCK」、先週の月曜〜水曜(22日〜24日)NHKBSでの放映でした。
シャーロック・ホームズが、現代で犯罪を解決するコンサルタント業、という設定で、コナン・ドイルの原作の事件も現代風にアレンジされて再登場。
現代版シャーロック・ホームズというよりは、全編が原作と1980年代放映のグラナダTV版ホームズへのオマージュというかパロディというか、マニアックな仕掛けが満載で、知っているとあちこちでクスリと笑えます。
たとえば業を煮やしたレストレイド警部がホームズの部屋に家宅捜索令状を持ってやってくる。「何の容疑だ?」「麻薬所持」。
19世紀の原作で阿片チンキを飲んでたホームズを知ってる人は、あぁありえる、と思うわけですが、禁煙パッチを貼って禁煙している現代のシャーロックの部屋からは何も出ません。
セリフにもいろいろ仕掛けがあったようで、私がシャーロッキアンだったらさらにもっと楽しめたんだろうけれど、私がウケたのはおもにグラナダTV版のオマージュの方でした。カメラワークとか照明とかが、いかにもで。

まぁその、パトリック・オブライアン・ファンとしては、黒髪に薄い瞳で、マントルピースの上に平気で頭蓋骨を放置しているホームズ(演じているのは、「アメイジング・グレイス」でピット首相役だったベネディクト・カンバーバッチ)を見ていると、なんとなく「マチュリンの若い頃ってこんな感じ?」とか考えてしまって…こんなこと言うとシャーロッキアンから怒られてしまいそうだから、ここだけの話だけれど。

ドラマでは、ホームズが部屋のマントルピースの上に放置していた頭蓋骨がいつの間にかなくなっていて、「あれどうしたんだ?」と尋ねるワトソンに「ハドソンさんに片付けられた」と憮然と答えるホームズ。あ〜ぁマントルピースの上に置くからよ。スティーブンみたいに食器棚の中に入れておいたらよかったのに、と思ってたら第三話ではホームズ、冷蔵庫の中に生首を入れていた。
買ってきたものをしまおうとしたワトソンがぎょっとして「なんで冷蔵庫に生首が入ってるんだ?」と訊くと「調べるために借りて来たんだけど、腐るから」と。
あぁ19世紀に冷蔵庫がなくてよかったね…なんて余計なことを考えるオブライアン・ファンがここに一人。

さて、原作や昔ながらの日本語訳ではワトソンを「ワトソン君」と呼んでるホームズですが、現代なので現代らしく「ジョン」とファーストネームで。
ワトソンがアフガニスタンで負傷して退役した陸軍軍医という設定は同じ。
同じ…どころか最初にホームズは「アフガニスタン? イラク? どっち?」とワトソンに尋ねる。あぁそうだ、現代はアフガンのほかにイラクっていう可能性もあったのだった(このあたりでクリス・ライアンやアンディ・マクナブの小説がぱらぱらと頭に思い浮かぶ)。
舞台を150年後に移しても同じセリフが生きる(どころか選択肢が増えている)英国ってどうなの?って皮肉に思わないでもありません。

でも現代の英国ではやはり「紳士」の概念は薄れてきているのでしょうか?
もちろん英国は今でも階級社会だし、ホームズの兄マイクロフト(外務省のエリート役人)は嫌味ったらしいインテリ英語をしゃべるし、M&C時代の水兵のような発音をするコソ泥の英語を、いちいち丁寧に文法的に直すホームズなどというシーンも出てくるけれど、見た目あきらかに「紳士でございます」というような演技(歩き方とか立ち居振る舞いとか、外出するときの服装とか)はホームズにもワトソンにも無い。
「紳士」の概念は、それでも第二次大戦後もしばらくは明らかにあったと思うんですよね。ショーン・コネリーのジェームズ・ボンドは明らかに「紳士」だから。いつ頃から変っていったのか?
今年の4月23日の日記で、英国気質が変わったのではないか?という話をしましたが、このあたり関連あるのかもしれません。

そして、現代版だと女性が自然体で魅力的、レストレイド警部の部下のサリー巡査部長、検死官のモリー、ワトソンがパートで働いている診療所のサラ、マイクロフトの部下のアンシアも再登場を期待したいですね。
自然体でというのは、最新ハリウッド版「シャーロック・ホームズ」(ロバート・ダウニーJr.とジュード・ロウの)でレイチェル・マクアダムズが演じたアイリーン・アドラーと比較して、という意味だけれど。
19世紀だと明らかに紳士淑女の「様式」があるんだけれども、現代のロンドンにはそれが無い。

ロンドンの街自体も、この10年でずいぶん変りましたねぇ。
新宿の東京モード学園みたいな高層ビルが建ってたり、バスとタクシーは完全に排ガス規制適合車に模様替えされてるし、
でもマイクロフトは本当に「いかにも」な現代スパイ小説によく出てくる風の「外務省のエリート役人」なので、逆にすぐ誰だかわかっちゃった。

あ、スパイ小説と言えば、ホームズ役のベネディクト・カンバーバッチの出演作をIMDBで調べていてびっくり、
彼の次回作(映画)はジョン・ル・カレの「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」(ハヤカワ文庫NV)、これ映画化されるんだ!
比較的マイナーなプロダクションで、スウェーデン人監督。ジョージ・スマイリー役はゲイリー・オールドマン。

昨年公開されたハリウッド版最新「シャーロック・ホームズ」とBBC版の違いは、「イギリス流の毒」があるかないか、だと思います。
ハリウッド版は19世紀ロンドンの街とテムズ河をほぼ正確に再現し、監督は英国人で、ジュード・ロウなんて完璧な紳士を演じていると思うんだけれど、いまひとつ物足りない。
その理由は、毒抜きされてしまってるからなんだ…と、今回BBC版を見ながら気づきました。ハリウッドは万民にうける作品が基本だから仕方ないけど。
やっぱり、英国作品は(監督だけではなく)資本からプロデューサーから全て英国でないと、英国の毒のある面白さをそのままには出来ないんじゃないか?と今回思った次第です。
上記ジョン・ル・カレの映画化については、そんなわけでどこまで渋く抑えられるかに期待と不安が入り交じりますが、どうなることでしょう。

さて、あんなとんでもない終わり方をした「SHERLOCK」ですが、続編は3話製作されていて、英国では2012年はじめにBBC放送予定。
でも続編3話目が「ライヘンバッハの滝」の話なので、いちおう6話でモリアーティ教授との決着はつくものと思われます。
日本での放映は一番早くて来年の夏でしょうけど、できるだけ早めに放映をお願いします。NHKさま>


2011年08月27日(土)
アークティック・ミッションその後

北極圏の話題が続きますが、北極圏には真夏しか入れないので、探査や探検は夏に集中せざるをえません。
2005年1月10日の日記に「アークティック・ミッション」というカナダの調査船セドナ号の北極探検の記録映画の話題を上げたことがあるのですが、この時のセドナ号のミッション(任務)は、「1845年に北極航路開拓のため探検航海に出て行方不明となったサー・ジョン・フランクリンと指揮下の2隻H.M.S.エレバスとH.M.S.テラーの調査」でした。

カナダはその後も、この調査を継続しています。
じつは昨年の夏にちょっとした発見がありました。

エレバス号とテナー号が消息を絶った3年後の1948年に、英国海軍は2隻の軍艦を捜索に派遣します。
H.M.S.インヴェスティゲーターとH.M.S.エンタープライズです。


この写真は、じつは5年前にアイルランドに旅行した時に、ダブリンの聖クライストチャーチ大聖堂で撮影したものですが、この2隻のうちエンタープライズ号は帰還したものの、インヴェスティゲーター号は現在のカナダのマーシー湾で流氷に囲まれ脱出不能となり、最終的には沈没しました。
フランクリンの探検隊と異なり、インヴェスティゲーター号の乗組員は艦を捨て氷の海の上を徒歩で南下し生還、艦の沈没地点も正確に記録されていました。
そこでカナダの調査隊は夏になるとマーシー湾の該当地点をソナーで捜していたのですが、昨年夏インヴェスティゲーター号と思われる沈船を発見、今年の夏を待ってダイバーが確認に潜ったところ、この沈船がインヴェスティゲーター号と確認されたとのことです。

19th-century shipwreck artifact treasure trove
http://www.winnipegfreepress.com/canada/19th-century-shipwreck-artifact-treasure-trove-127440273.html

記事によると、艦に張られた鋼板のおかげで沈船はほぼ原型を保っており、艦内には当時の品がそのままに残されているとのこと。
今後の調査が待たれます。
なお、上の記事では艦に張られた銅板(copper)とありますが、下記によれば、銅ではなく氷対策に特別に鋼板を張ったようです。

H.M.S.Investigator(1848)
http://en.wikipedia.org/wiki/HMS_Investigator_(1848)

最初の鋼鉄艦H.M.S.Warriorの進水が1860年ですから、1848年の艦に鋼板を張ることは可能であったのでは?と思いますが、

カナダの調査隊は、インヴェスティゲーター号の潜水調査をさらに進めるとともに、引き続きエレバス号とテナー号についても探し続けるとのことです。


2011年08月21日(日)
王立地理協会の若者向けキャンプでの事故

パトリック・オブライアン・フォーラムで、話題になっていた英国のニュースです。

英国王立地理協会の基金でノルウェーのスピッツベルゲン島で行われている「若者のための夏の北極探検キャンプ」に参加した17才の少年が、シロクマに襲われて命を落としたということです。

Polar bear kills young British adventurer in Norway
http://www.guardian.co.uk/world/2011/aug/05/polar-bear-mauls-british-death?INTCMP=ILCNETTXT3487

この記事がオブライアン・フォーラムで話題になるのは、かつてネルソン提督が士官候補生時代にシロクマに遭遇したエピソードに由来するものと思われますが、

私がこの記事を読んで思ったことは、これは他人ごとではないな、でした。
シロクマは突如、キャンプに乱入して来たようですが、スピッツベルゲン島では最近、住民の居住エリアに出没するクマが増えたというのです。気候変動で十分に餌を得られないクマが、人里に食べものを求めてやってくる…シロクマをツキノワグマやヒグマに入れ替えたら日本でも毎年のように起きている事件でしょう。

今回、シロクマはいきなりキャンプに入ってきてテントを襲ったということです。
そこには食べ物があるとわかっていたのだと思います。

王立地理協会が英国の若者たちのために行うキャンプの目的は「人里離れた手つかずの自然環境の中で、自立心を養う」ことだったそうです。
英国のアドベンチャー精神は今でも健在なのだな、と感心するとともに、王立地理協会がこのようなキャンプを行っていることを好ましく思いますが、今回は気候変動が予想外の事故を呼んでしまったということなのでしょう。
もっとも先ほども書いたように、このような事故は、日本でも容易に起こることなので、事故そのものにはあまり驚きませんが、狭い日本ではクマの出る可能性のあるところには警告の看板があらかじめ出ているものの、人里離れた手つかずのスピッツベルゲンの自然環境ではそれは無理だろうな…と。

ともあれいろいろなところで、自然と人間のバランスが崩れてきているのは確かなようです。


2011年08月14日(日)