Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
クック夫人のお料理本
米国のオブライアン・フォーラム(掲示板)に、「クック夫人のお料理本」という、ちょっと面白そうな本が紹介されていました。 Mrs Cook's Book of Recipes: For Mariners in Distant Seas by John Dunmore 96pp, Quercus, £6.99
英国で発売された本のようですね。英国の全国紙ザ・ガーディアンの書評に載っていたそうです。 原文詳細は下記URLをご参照ください。 http://books.guardian.co.uk/review/story/0,,2146062,00.html
クック夫人というのは、18世紀にヨーロッパ人として初めて南太平洋探検しオーストラリアが大陸であることを「発見」した、キャプテン・ジェームズ・クックの妻エリザベス・クックのことです。 この本は、クック夫人が夫の手紙や話から初めて知った、大海原を航海する帆船ならではの料理や、遠く離れた異国の料理について調理法を記した体裁で、 著名な海事史研究者ジョン・ダンモアが、クック船長が妻に宛てた数多くの手紙や、クックとともに航海した乗組員たちの手紙をもとに執筆しました。 クックの航海に同行した博物学者ジョセフ・バンクス(パトリック・オブライアンがその自伝を書き、マチュリンのモデルともいわれる)の手紙や記録も多数参考にされているそうです。
まぁその、オブライアンの本をお読みになった皆様であれば、容易に想像がつくとは思いますが、この本で紹介されているメニューは、「アホウドリのシチュー」「パンの実のロースト」「ウミガメのスープ」「クラゲのしょうゆ風味」などなど。 オブライアン4巻「特命航海嵐のインド洋」にも登場する船乗りの常食(?非常食?)ネズミのソテーのレシピは、オブライアンの料理本「Lobscouse and Spotted Dog」にも紹介されていますが、 このクック夫人のお料理本で特筆すべきは、料理の下ごしらえ (というか…ネズミのさばき方?)まで事細かに書かれていることで、 その詳細については上記ザ・ガーディアン紙の書評には紹介されていますが、ちょっと日本語に訳すのは止めておきます。 …現代人感覚だとやっぱりちょっと、いや私も魚ならさばいたコトあるんですけど、ちょっとネズミは…。
いやネズミのさばき方は遠慮しておきますが、日本人としては「cooked jellyfish in soy sauce」しょうゆで味付けしたクラゲっていうのがどういう調理法だか、ちょっと興味がありまして。
2007年08月19日(日)
1842年8月9日は、
8月9日は、長崎原爆投下記念日ですが、 アメリカのオブライアン・フォーラム(掲示板)では、そのことを気に留められる方はなく、別の話題が紹介されていました。
これは哀しいことですが、得てして世の中はそういうもので、私も日中戦争の発端になった柳条湖事件は知っていても、それが9月18日だったということは、今年中国で行われるサッカーの、試合日程が変更になるまで気づかなかったのだから、ある意味同じことです。 過去に禍根のある国々がインターナショナルにお付き合いしていく上では、こういう細かい部分の心配りが大切なので、これはなかなかに難しいことですが、
話を戻しまして、今日話題にとりあげるのは、19世紀の1842年8月9日のお話です。 オブライアン・フォーラムによれば、この日はイギリスとアメリカがWebster-Ashburton Treatyという条約を締結し、奴隷貿易摘発に相互協力を行うことになった日なのだとか(下記URL参照)。 http://www.wwnorton.com/cgi-bin/ceilidh.exe/pob/forum/?C3400c740akrw-6430-1242-07.htm
この書き込みを読んで「へぇ〜?」と意外に思ったところとか、疑問に思ったこととかがいくつかあって、この時代関連で幾つか調べものをしてしまいました。 雑学にもならない知識ですけど、こんなことに興味を持たれる方がありましたら、お付き合いください。
まず最初に疑問に思ったのは、1842年という時期、
アメリカで奴隷解放というとエイブラハム・リンカーン1863年というのが一般的な知識でしょう? その21年も前に奴隷貿易摘発なんてやっていたの?というのがギモンの第一、 もっとも協力相手のイギリス海軍は、以前に4月1日の日記でご紹介した通り、1807年から奴隷貿易摘発パトロールを実施していますから、これでも十分遅すぎるくらいなんですが、
ところが、上記書き込みが参照しているアメリカ海軍の歴史サイト(下記)によると、 http://www.history.navy.mil/faqs/stream/faq45-6.htm
アメリカで奴隷貿易が違法と決議されたのは1819年で、アメリカ海軍は1821年から西アフリカで奴隷貿易船の摘発を行っていたというんです。 今年英米で公開されたヨアン・グリフィス主演の映画「アメイジング・グレイス」にある通り、イギリスで奴隷貿易が禁止され摘発が始まったのは1807年ですから、アメリカはこれに遅れること12年ですが、となると次の疑問が、
アメリカは1819年に奴隷貿易禁止を決議しながら、奴隷制度そのものは1863年まで存続していた…ということになるんですね。 もっとも北部は以前から奴隷制度に反対していて、南部は固執していたから、南北戦争まで起きたわけだけれども。
でも上でご紹介した米海軍の歴史サイトによると、この摘発キャンペーンにはずいぶんリキが入っていたようで、投入された艦船がけっこうメジャーどころなんです。 何といっても筆頭があのU.S.S.コンスティテューションですから。 M&C時代最強の最新鋭フリゲート艦でアケロン号のモデル、あのジャワ号(ジャックが6巻でオーストラリアからの帰国途中に世話になっていた艦)を撃破した戦歴もあって、現在もボストンの乾ドックに保存されている歴史的モニュメントです。
あの時代の海洋小説を読んでいると、西アフリカの奴隷貿易摘発というのは、現地の気候条件も厳しい、神に見捨てられた地の果ての任務…みたいなイメージがあるので、こんなところに、あのコンスティテューションを投入?というのはちょっと意外。 でもコンスティテューションのHPでチェックしていみたら、本当に西アフリカに行ってるんですね。 http://www.ussconstitution.navy.mil/historyupdate.htm 退役前の最後のお仕事だったようですけど、
でも他に名前の挙がっている艦、USSコンステレーション、サラトガ、ヨークタウンのいずれも、艦名が現代まで受け継がれている(空母やミサイル巡洋艦として)歴史と伝統ある艦で、サラトガは1812-15年の米英戦争で活躍した当時の有名艦だったり、これだけメジャーどころを投入するってことは、かなり本気だったんだろうな…と思います。
にもかかわらず、同じ地域で15年前から同じ任務を行っていた英国と共同戦線を張ったのが20年もたった後の1842年?というのがこれまたギモン…第二のギモンですね。 イギリスとアメリカは、今日の常識では仲の良い同盟国ですが、ジャックの時代(1812-15年)には戦争をしていたわけで、とりあえず1815年に停戦した後の関係は、どうだったんでしょうね?
このあたりもう少し調べてみないとよくわからないんですが、8月9日に締結されて奴隷摘発における相互協力が確約されたというその条約は、下記によると、本来はアメリカとカナダ(当時は英国植民地)の国境線を画定する条約だったようです。 http://en.wikipedia.org/wiki/Webster-Ashburton_Treaty ということは、1815年以降42年までの間、アメリカとイギリスの間はまだ多少ぎくしゃくしていた…ということなのか? …このあたりを描いた海洋小説がないので、私にはよくわからないんですけど、
それは別として、ヨアン主演の「アメイジング・グレイス」、英国アマゾンではDVDが発売になりました。 米国および日本のアマゾンにはまだ上がってきていませんが、これ日本公開どうなってるんでしょうか? 日本公開があれば、日本版のDVDも出る筈なので、英国版には手をださないんだけれども、悩むところです。
2007年08月12日(日)
夏休みではないのですが
夏休み…というわけではないのですが、 夏枯れ?…水平線の向こうには何もなくて、見張りは退屈しています。 このまんまだと今週もお休みになりかねないので、中間報告のようなおしゃべりを。
いえ、ちゃんと毎日あっちのサイトはチェックしているんですけど、これと言ったニュースがなくて、 オブライアン・フォーラムに上がってくる、たいしたことないけど笑えるネタ…大西洋をあひるのオモチャの大群が泳いでいるとか、ピレネー山脈の美食な野生熊…とかいうくだらないネタすら、ここ1〜2週間は切れているんです。とほほ。
ラッセル・クロウはシドニーのラグビー・チームのオーナーなんですが、このチームが先日良い試合をしたらしく「ラッセル艦長の采配は巧みだ!」というような記事が向こうの新聞にのりましたが、これもわざわざ、こちらのブログで紹介するほどのネタではなく…、
ラッセルと言えば、今週末から、主演映画「プロヴァンスの贈り物」が公開になりますね。 http://moviessearch.yahoo.co.jp/detail/tydt/id326218/ 監督はリドリー・スコット。
映画評によると「甘さ控えめでひねりの利いた映画で、スコットらしいこだわりが随所に感じられる大人が楽しめる作品」とのこと。 どうしようかな〜と思ってたんですが、「何より柔和な日差しに包まれた緑豊かなプロヴァンスの絵画のような風景が素晴らしい。光の使い方のうまさに定評があるスコット監督らしい映像美だ」と映画評にあったので、これはやっぱり行くべき?と。 前作のキングダム・オブ・ヘブンもそうだったんですけど、風景を本当に綺麗に撮るんですよね、この監督。
なんだか最近、BGMじゃんじゃ〜ん!のハリウッド映画に疲れているので(結局まだ海賊映画に行ってないんですよ、皆さんが「長い、疲れる」とおっしゃるので引いてしまって)、こういう映画の方が良いかしらと。
2007年08月04日(土)
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