Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
オブライアン5巻、ハヤカワ5月新刊
早川書房5月の新刊案内がネットにupされました。 出ますよ! オブライアンの5巻! 5月下旬です。
「囚人護送艦、流刑大陸へ(上・下)」 ローテーションが早いなぁと思ったら、訳は大森洋子さんでした。 あらら…じゃぁトマス・キッドの次巻はしばらくお預け?
この5巻は面白いです。絶対のお勧めです。 でも…私はこの艦には絶対に乗りたくない。
たいへんな事態が襲いかかり、艦長のジャックと軍医のスティーブンはたいへんな目に遭います。 傍から見ていてもとても気の毒です。辛いだろうなぁと思います。 でも…だからこそ、傍から読む分にはこれほど面白い本はないのですが(非道いことを)。 いやその、読む側としてはこれほどハラハラドキドキさせられる巻もないので貴重な体験ができると。
そして、だからこそジャックは本領を発揮します。極限状態の指導力が試される状況でさすがだと。 このジャックをラッセルで見たかった…とつくづく思います。 皆さま>この巻は期待を裏切りません。お楽しみに!
でも…ちょっと心配なのは、この日本語タイトル、なんだか暗くありません? 前から発売を楽しみに待っていたファンはともかく、書店で平積みになった時に、初対面の人の手が伸びるかしら? この巻の表紙はジェフ・ハントの嵐の海(これです)でしょう? これで流刑大陸へ!と言うと、やっぱりちょっと…引きません? 大丈夫かしら?
「レパード号、カンガルーとコアラの島へ(上・下)」 でも、一応内容的には間違いはないのですが…。やっぱり表紙絵と釣り合わないから却下? あ…流刑大陸ってオーストラリアのことですよ。
5月が待ちきれませんね。 私も早く、バビントン君のわんちゃんに会いたいわ(?)。 Nさん、情報ありがとうございました。
2005年03月28日(月)
[Sea Britain 2005] 海軍博物館特別展示
英国ポーツマスのヒストリカル・ドックヤードで200年前のビクトリー号の帆布が展示されるニュースは先週お伝えしましたが、ドックヤード内の海軍博物館では今年5月中旬から10月30日まで、更に二つの特別展示が行われます。
ひとつめはトラファルガー海戦のデータベース。海戦に参加した戦列艦には合計で18,000の将兵が乗り組んでいたそうですが、この全ての人名を網羅したデータベースが期間中アクセス可能です。 このデータベースを使って、祖先がトラファルガー海戦に参加していたかどうか調べることができる…とされています。
二つ目は当時の書簡など当時の文書からなる生資料の公開。 博物館なのだから当たり前…と思われるかもしれませんが、海軍博物館は通常は生資料は展示していない筈です(むかし私が行った時にはそうでした)。これは貴重な機会になると思います。
これらに関する詳細記事はこちら。
2005年03月27日(日)
ドクターの誕生日に思う
昨日3月25日は、スティーブン・マチュリンの誕生日とされている日です。 お誕生日をお祝いしていたサイトもあるようですね。
昨日の日記では冒険小説の中のアイルランド人を語ったのですが、それで思い出したことがあります。 マチュリンってアリエスつまり牡羊座なんですね。アリエスの人は生まれながらの癒し手(healer)で医者の相なのだそうです。それが兵士であることは珍しい。 …とあるアイルランド人の老教授が、とある冒険小説で言っていました。
ほぼ初対面の人に突然、占星術の話しを始めるところがこの老教授の怪しさというかケルト臭の感じられるエピソードになっているのですが、 小説世界で私の持つ典型的アイルランド人のイメージは、この教授リーアム・デブリンの強烈な印象にかなりなところ支配されています。 ジャック・ヒギンズの第二次大戦を舞台にしたベストセラー「鷲は舞い降りた」の副主人公であるデブリンは、映画では若き日のドナルド・サザランド(今や「24」のキーファーのお父さんと言った方が良いかしら?)が演じていました。 このキャラクターは余程魅力的だったのか、デブリンはその後、1980年代を舞台とした同一作家のスパイ小説に、老教授として再登場します。
デブリンは自己の信条に何処までも忠実。皮肉屋でシニカルで人生を斜めに見ているように見えながら、己の信じた人生を貫き通す人です。 これが私の持つアイルランド人の基本イメージでしょうか。
たまたま…というか現実社会で、インタビューなどを知る機会の多かったもう一人のアイルランド人=F1ドライバーのエディ・アーバイン(もうF1は引退してます)が同じような生き方をしていたものだから、何やら私の中では確たるアイルランド人のイメージが出来上がってしまいました。 …これが正しいのかどうかわかりません。どうも極端な人の例をたまたま二人知ってしまったような気がしないでもないのですが、
そのイメージでマチュリンを見ると、自己の信条に忠実であるとかシニカルであるとかは当たっているのですが、時々ちょっと、この人はアイルランド人にしてはかなり情熱的だと思うところがあって、 1巻に登場する副長のディロンとか、4巻のマカダム医師の方が、シニカルでありながら根暗く頑固なアイリッシュのイメージに近いような…、 さらに、映画「マスター・アンド・コマンダー」でもよく描かれていますが、マチュリン先生は科学の人で、ケルト的怪しさというか土俗的なところが全くない。 ゆえになんとなく、らしくないところのあるアイルランド人だなぁと。
実は私は、マチュリンのところどころにラテンの血を感じるのです。 ただ彼の血の半分を構成するカタロニア人がどこまでラテン的なのかというと、これがわからない。 カタロニア人ってどういう人なのでしょう? スペインに留学した人に聞いたら「カタロニア人はスペイン人より温厚だ」と言うのですが、
こういうものは、普通の本を読んでもわからないのですよね。 私がアイルランド人について多少のイメージを持つことができるのも、知識を与える解説本ではなく、アイルランド人やイングランド人の書いた小説を読んでいるからで、本当のイメージというのはやはり、その社会の内側で暮らす人でなければわからないものなのだと思います。
どこかにカタロニア人の何たるかがわかるスペインの小説(日本語に訳されたもの)はありませんかねぇ?
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リーアム・デブリンが牡羊座を語った…とある冒険小説とは ジャック・ヒギンズ「テロリストに薔薇を」ハヤカワ文庫NV621のことです。
2005年03月26日(土)
聖パトリックデー・パレードの日に思う
先週の日曜日、東京・表参道の聖パトリック・デー・パレードを見に行ってきました。 小じんまりとしたパレードでしたけど、生バグパイプと生フィドルを聴くことができて、楽しい思いをしてきました。
というような、ざっくばらんな話を本当は先週upしようと思っていたのですが、休みなのに仕事を引きずって…といいますか、先々週は硬い報告書のまとめをしていましたので、私自身がやわらかい文章を書けなくなってしまったみたいで、どうにも…断念いたしました。
というわけで一週間遅れの話題で恐縮ですが、今日は情報日記ではなくて、ざっくばらんなアイルランドの話。
先週のパレードに行って驚いたのは、西洋人の多さでした。沿道にもいっぱい。 東京ってこんなに西洋人多かったっけ?…と。 そう言えば2年前のW杯の時もそうでした。職場の近くのアイリッシュパブに、何処から降って湧いたかと思われるほどの西洋人が…。 実際のアイルランド人は、その中のごく少数でしょうけれど、沿道のアメリカ英語を話す人々の中の多くはアイルランド系アメリカ人かもしれません。 海外に移民として渡ったアイルランド系の人々は、現在本国に暮らす人々の4倍の数に上るとききます。
「アイルランド」という国には強烈に人を惹きつける魅力がある…ことは間違いないのでしょう。 なんと言っても、聖パトリックデー・パレードのようなものが有志で成り立ってしまう。 アジアの国ならともかくそれ以外にこんな国ありますか? 日本人の中にもアイルランドに魅せられた人々は数多くいらっしゃいます。アイルランドやスコットランドは、お好きな方は本当にお好きですよね。 アイルランドの魅力って何なのでしょう?
英国の冒険小説を読んでいると、アイルランド人とスコットランド人の魅力からは逃れられません。 ジャック・ヒギンズやアリステア・マクリーンのような、アイルランド系、スコットランド系の作家が自らの血に誇りをもって魅力的な人間像を描きだしていることもありますが、イングランド出身の作家たち、ハモンド・イネスやデズモンド・バグリィ、海洋系ではダグラス・リーマンやダドリ・ポープなどが描いてもアイルランド人、スコットランド人は魅力的なのですね。 ちなみに、パトリック・オブライアンはアイルランド系を思わせるペンネームですが、実はイングランド人です。
英国冒険小説のパターンで言うと、アイルランド人やスコットランド人は危険を察知する不思議な第六感や、人の心情を巧みに理解する能力もっている…ことが多い。 それを「ケルト的なちから」と解説していたのは、ハモンド・イネスの「報復の海」のあとがきだったように記憶しているのですが、違ったかしら?
実は私は、ハヤカワ文庫はNVと同じくらいFT(ファンタジー文庫)にお世話になっている人でして、洋書ペーパーバックも実は海洋小説と同じくらいアダルト・ファンタジーを購入していたりします。 読んでいるのはアメリカ女流作家のファンタジー小説が多いのですが、こちらの世界ではアイルランドは大人気。 アイルランド系移民の少女が旅行先のアイルランドで妖精界にまぎれこんでしまう話あり、能力者は総じて赤毛(ケルト系の特色)という設定の小説あり、明らかに古代アイルランドと思われる島を舞台にした物語があったり、 これらの物語には、アメリカ人・カナダ人たちのアイルランドへの憧れがかいま見えて面白い。 それでいて、アングロサクソン・プロテスタントではないアイルランド人またはアイルランド系移民は社会的には弱者であり、イングランド人やアングロサクソン・プロテスタントの一部にはアイルランド系を見下す風潮が確実にあるのです。
それは、当事者ではない日本人の私に理解できるものではありませんが、英米の小説全般に不思議な陰影を与え、それから少々不謹慎で恐縮ながら、小説における魅力を加えていることは確かのようです。
2005年03月25日(金)
[Sea Britain 2005] ビクトリー号のフォア・トプスル公開
この3月18日から10月30日まで、英国ポーツマスのヒストリック・ドックヤードでは、トラファルガー海戦時にビクトリー号が展帆していたフォア・トプスルが展示されるとのことです。
この帆布は1803年にチャタムの工廠で製作され、1806年までビクトリー号で使用された後、工廠で保管されてきたもので、1905年の100周年記念の時にも展示されたのだとか。
ポーツマスのヒストリック・ドックヤードは、ポーツマス・ハーバー駅の前、ビクトリー号やウォリアー号が係留展示され、海軍博物館などもある一角です。
このニュースの詳細はこちら
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お仕事にエネルギーを吸い尽くされてしまいまして、とり急ぎのニュースのみしか更新できず恐縮です。 「グラディエイター」も「ロック・ユー」もDVDのHDDの中に眠らせたまんまになっていますが、先々週の日経土曜版のグラディエイター映画評というのはなかなか面白かったです。 いわく、グラディエイターというのはつまりは講談だ。不当に貶められた主人公の権力に対する胸のすくような復讐劇だから…という分析だったのですが、 これを読んで、何故グラディエイター以後の歴史大作映画がコケるのかわかったような気がしました。 ハリウッドはグラディエイターのヒット=歴史モノのヒットと誤解してけれど、実際のところアメリカ人の観客にウケていたのは、古代ローマではなくって、講談だったのでは?…と。 こうなるとやっぱり5月公開の十字軍「キングダム・オブ・ヘブン」も苦戦でしょうか。
あともう一週間くらい、3月いっぱい更新は低空飛行だと思います。 ご容赦くださいますよう。
2005年03月21日(月)
Revelation
ついに風邪につかまってしまいました。 鼻をグスグス、咳をゴホゴホやっております。 土日は家を一歩も出ずに養生…やったわ、DVD三昧のチャンス!と思ったのは間違いで、三昧が出来るほど目が強くないのを忘れてました。 結局、そこそこしかDVDは見られなかったのですが、 まぁ昨日はNHKBSでずーっとアカデミー賞授賞式総集編を見ていたので、あれで2時間半とられてしまいましたし。
でもこのチャンスにやっと、以前Cさんからお借りしたジェイムズ・ダーシーの「Revelation」を見ることができました。 この映画、キャッチコピーは「オカルトスリラー」になっていますが、オカルト???ちょっと違うような? フリーメイソンとテンプル騎士団の謎解き…ですから、ロン・ハワードが映画化するという「ダヴィンチ・コード」とか、来週から公開予定の「ナショナル・トレジャー」とかと同じ元ネタの、サスペンス映画だとお考えください。
ダーシー演じるジェイクは、実は資産家マルテル卿の一人息子だが、父に反発した挙げ句、前科者となった。 釈放されたその日、ジェイクは父からコーンウォールの城に呼び出され、一枚のCD-Romを手渡される。その晩、城は何者かに襲撃され、父は非業の死をとげる。 父が行っていた研究とは何か? テンプル騎士団の謎とは? ダーシーは父の研究グループにいた錬金術師のミラとともに、追っ手をかわしながら南フランス、マルタ、ギリシア…と謎の答えを探しもとめる。
私はまだ「ナショナル・トレジャー」を見ていないのでわからないのですが、「ダヴィンチ・コード」の原作と比べると、謎解きの方法が全く異なるのは、主人公たちの専門の差なのか。 「ダヴィンチ…」は暗号解読専門家と美術形象学教授が主人公のゆえか、謎をとく手がかりは歴史上有名な絵画や美術品に隠されているのですが、こちらの映画の相棒ミラは錬金術師(正確に言えば、錬金術の研究者)なので謎解きの手がかかりがかなり異なります。ゆえにきっとオカルト…とか言われてしまうんでしょうけど、これって本当にオカルト?
この映画の謎解きは、たとえば占星術(謎が隠された当時…中世の惑星の位置)などを使って地図上に図形を描き、謎が隠された土地を割り出していくのですが、私も英語のセリフを全部理解できているわけではないので、よくわかっていないところもありますが、ただ彼らがやっている作業だけを見ていて思うのは、なんか東洋的だな〜ということ。 私は錬金術には疎く、ですからこの映画の中で出てくる方法がどこまで、当時の錬金術師が用いていた方法なのかわからないのですが、 でもこの方法…東洋人だったらわりと当たり前に使うわよね、と思った。 ちょっと内容は違うけれども。
どの方角のどのくらい離れたところに宝物を隠すかは、当時の惑星の配置で場所を決めるんです。 ゆえにそれを逆にたどっていくと、場所を見つけだすことができるのですが、その方法を傍から見ていると、たとえば風水にこだわる東洋人とか、方角にこだわる日本人は、必ず特定の方角の特定の場所に神社仏閣などを建立しますよね、あの逆を見ているような感じです。
個人的にはダヴィンチ・コード的謎解きよりも、この手の錬金術的(?)謎解きの方が好みですが、でもこれ、オカルトじゃないと思うわ〜。
ところでこの作品、たぶんマイナー映画だったからあまり問題にならなかったのだと思いますけど、真面目なギリスト教徒の中には許せないと思われる方もあるかもしれません。 いやその、こちらの方が、明かされる謎とその結果がダヴィンチ・コードより過激だし、あのダヴィンチ・コードですら、ハリウッドでの映画化には一部の教会が反対しているというのだから、こちらの映画が大々的に公開されていたら、きっと大騒ぎになっていたのではないかしら?
さて、で、ジェイムズ・ダーシーのジェイクですが、髪が短くて精悍で、青臭いけど格好いいです。 でも…、やっぱりこの人に前科者…っていうのはムリがあるんではないかと。 だってぜんぜん犯罪者に見えないんだもの(苦笑)。 そりゃ喧嘩慣れしていたり、一般人のくせして銃を扱いなれていたり…という状況のためには必要な設定だったかもしれませんが、 いやでも私、途中で、この人本当に前科者?って疑いましたよ。 映画の冒頭で彼が出てきた建物は実は刑務所ではなくって、軍の基地かなにかで、実は除隊したところだった…んじゃないでしょうね?と思って、最初に戻ってもう一度英語を聞き直したのですが「プリズン」って言ってました。やはり刑務所か。
こうなってくると「ナショナル・トレジャー」の謎解きが果たしてどのようなものか?乗りかかった船で興味はありますが、この忙しい時期にそこまで見に行ってる時間はおそらく無いと思われるので(ごめんなさい。「サイドウェイ」と「アビエイター」と「ローレライ」が先…それも今しばらくはムリ)、どなたか見に行かれた方、私に教えてくださいまし。 Cさん長い間お借りしてしまってすみませんでした。ありがとうございました。
2005年03月13日(日)
聖パトリック・デー in Japan
年度末最盛期です。 ご無沙汰しています。 恐縮ながら余裕があまりないので、お知らせのみのそっけない更新で失礼。
本日、外出中に東京の地下鉄駅で「あらっ?」というポスターを見かけました。 アイルランド大使館の「セント・パトリックデー・パレード」のポスター。
アイルランドの守護聖人、聖パトリックのご命日は3月17日、この日を記念してアイルランドはもとより、アイルランド系移民の多いアメリカなどではこの日大がかりなパレードなどが行われますが、このパレード、日本でも行われています。
17日をはさんで、12日(土)が横浜と伊勢、20日(日)が東京、名古屋…は先週5日だったそうです。 名古屋の方>気がつくのが遅くてパレード終わってしまい、申し訳ありません。
詳細はこちら http://www.inj.or.jp/stpatrick.html
マチュリン先生やクロンファート卿をしのびつつ、もしくはハーパー軍曹などを思い浮かべつつ、野次馬に見に行かれるのも良いのでは? アイリッシュバンドの参加などあるようですよ。
とり急ぎおしらせまで。 このポスター、東京の地下鉄駅に掲示されてます。探してみてください。
関東地方の方> ポール・ベタニーの(正確にはヒース・レッジャー主演の)「ROCK YOU」 テレビ朝日での放映は3月12日(土)26:10〜(予定)。 詳しくは当日の新聞をご確認ください。 Sさん>情報ありがとうございました。完全お仕事モードで私ころっとチェック忘れてました(おいっ!) 当日まで気づかなかったかも。
あぁ本当に、こうやって支えてくださる皆様がいらっしゃるから、やっていけるのですわ、このHP。 皆様、本当にありがとうございます。
2005年03月10日(木)
ハヤカワNV4月新刊は新シリーズ?
早川書房から、また海洋冒険の新シリーズが出るようです。 4月新刊(下旬:ハヤカワNV:文庫) 『ドーバーの伏兵』〈気弱な海尉ジェラルドの冒険〉 エドウィン・トーマス/高津幸枝訳
ところがね、早川書房のHPを見ますと、この新刊のキャッチコピーは以下の通りなのです。
「英国海軍海尉ジェラルドは、闘うのは嫌だが女好き−−かつてないアンチ・ヒーロー登場」
まぁ女好きっていうのはね、血気盛んなアラン君から、奥方がありながら緑のドレスの女性に魅了される提督がた(複数)まで、今までにもいろいろいらっしゃったんですが、 「闘うのは嫌だか…」っていうのはちょっと面白いパターンかもしれません。
それで…、実は先週、私がキュウキュウと残業している間に、この本について調べてくださった方がありまして、その資料をありがたく使わせていただきますと、
この本、英国ではバンタム・ブックスから2004年に発売されたペーパーバックで原題は「The Blighted Cliffs」、同じ年のうちに2冊目が発売されていて、現在シリーズは2冊。 舞台はいずれも1806年なのですが、「あらすじ」を読んでみると…、これ海軍士官が主人公ではありますが、海洋小説…になるのかしら?
主人公のマーティン・ジェラルド海尉はドーバーの町で上陸中に殺人容疑をかけられて、疑いを晴らすために奔走する、という物語のようです。第二作の舞台も1806年で、こちらは脱走したフランス人の捕虜を追いかける話で、いずれも舞台は陸上のよう。 まぁでも陸上だから…とがっかりするのは早いかもしれません。舞台が陸上でもアンソニー・フォレストのジャスティス・シリーズは面白かったですし、作者エドウィン・トーマスはオクスフォード大学で歴史専攻だったそうですから、当時の社会情勢を巧みに描いてくれるかもしれません。 そういえば、ジャスティスの作者アンソニー・フォレストも本業は歴史学者だったと記憶しています。
原書の英国版はこちら ちょっと表紙をクリックして拡大し、主人公の顔をよく覚えてくださいませ。 それから、今度はこっちをクリックしてみていただけますか? これはアメリカ版ペーパーバックの表紙です。 これって、両方とも主人公を描いている…筈ですよね。
なんというか…、これがイギリス人とアメリカ人の違いなのでしょうか? …つまり、「闘うのは嫌だが女好き…」な男に持つイメージの。
日本版の表紙はきっと、あたりさわりのない風景画(帆船かな?)になるのだと予想しますが、あ…でも昔ハヤカワNVから出ていたオークショット・シリーズは人物も入ってましたっけ? そう…オークショット。
ハヤカワ書房さま> 新シリーズはありがたいのですが、絶版になっているオークショット・シリーズを再版するというのは駄目でしょうか? これは全3巻ですし、再版リスクもあまり高くないと思うのですが、 オークショット・シリーズは歴史上の有名人や事件が多々登場するという意味でホーンブロワーやボライソーよりメジャーですし、入門的海洋小説としてはおすすめなのではと。 ついでに言えば、主人公がヘテロクロミア(ただし青と茶)の侯爵様(ただしとっても貧乏)ですし、女性ファンにアピールするのではと。
ところで、私も友人に指摘されて気付いたのですが、この作者エドウィン・トーマスは1977年生まれ…ですから現在28才。 海洋小説の作者としては若いですよね。 「ローレライ」の作者、福井晴敏氏よりも若いことになりますが。 いずれにせよ、今までの海洋冒険小説とはちょっとおもむきの異なった本になりそうです。
Uさん、Kさん、いろいろ教えていただきありがとうございました。
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「ローレライ」私は20日すぎまで行けそうにありませんが、 昨日、土曜洋画劇場を見ていたらTV予告に当たりまして、思ったんですけど、 予告冒頭のあの映像は、M&Cをパクっているんですか? それともパロっているんでしょうか? あのカットをパクっても何の足しにもなりませんので、やはりパロっているんでしょうか?
2005年03月07日(月)
[Sea Britain 2005] 英国陸地測量部発行トラファルガー記念地図
日本で全国の5万分の一、2万5千分の一などの基本となる地形図を作って販売しているのは国土交通省の国土地理院、イギリスでこの仕事をしているのは独立行政法人のような組織の「Ordnance Survey」というところで、通常はこれを「英国陸地測量部」と訳しています。
でもordnance surveyという英語を直訳すると実は「兵站業務のための調査」という意味になり、その名前からもわかるように、昔は英国陸軍省の組織でした。 そしてこの組織がが最初の地図を作ったのは1801年。場所はロンドンの南東にあたる現在のケント州で、その目的はまさにナポレオンの英本土侵攻に備えた防御のための地図づくりだったのです。
その由縁かどうかはわかりませんが、Ordnance Surveyは今年のトラファルガー200年を記念して、「The Trafalger Way」という歴史地図を発行する、ということです。 この地図には当時の英国の街道…それもトラファルガー海戦の勝利とネルソンの死をロンドンに伝えたピックル号のLapenotiere海尉がたどったルート(ファルマス〜ロンドン)が記されています。
やったー! これでファルマスからロンドンへの当時の街道ルートがわかろうというものです。 ボライソー・ファンとラミジ・ファンには夢の参考資料でございますわよ。 この地図、一般書店の店頭にも出るということなので、ネット書店からも手に入るのではないでしょうか? 陸地測量部のHPからも入手することができます。
このニュースに関するSea Britain 2005のプレスレリース 陸地測量部のプレスレリース
それにしても、英国人って本当に地図が好きですよね。 英国の小説ってよく地図がついていますよ。 児童文学とか読んでいると、小学生の女の子でも地図読んでますものね。英国にはきっと「地図の読めない女」は少ないに違いない。
そしてまた感心するのが、小説の中の地図がよく出来ていることで。 Ordnance Surveyの2万5千分の一地形図を購入して横においてみると、そっくりそのままなのに感動します。 なのでその逆もまたしかりなんです。
以前に、英国旅行の話をしてOrdnance Surveyの地図さえあれば、物語の舞台は何処でも行けますよ…というようなことを書いたと思うんですけど、私は「ウォーターシップダウンのうさぎたち」でこれを実際に試したことがあるのです。 この小説は英国南部バークシャー州の実際の地を舞台にした、うさぎたちの冒険物語で、日本語訳は「指輪物語」と同じ評論社から文庫で…まだ出ているかしら?…絶版になってないことを祈りますが。
この小説には扉に詳細な地図がついています。鉄道線路や川、高圧送電線まで書き込まれた地図が。 舞台がバークシャー州だとはわかっていたので、私は最初に、英国出張に行った父に頼んでバークシャー州のOrdnance Surveyの地図を買ってきてもらいました。その頃はまだ自分で英国に行くなんてことは考えもしなくて、ただ本当にこの地図の土地があるのか確かめたかっただけだったんですけど。
ところが買ってきてもらった地図を見ると、本当に小説についていた地図と同じなんですね。 まぁ鉄道や川があるのは当たり前かもしれませんが、送電線とか農場とかも本当に小説通りに地図に載っているんです。 ちょっと感動してしまって…。
それから数年たって、英国に…というかポーツマスとプリマスに海洋小説の舞台を尋ね歩く旅を実行することになったのですが、計画途中でふと気付いてしまったんです。 ウォーターシップダウンのうさぎたちの舞台になるオーバートンは、プリマスに行く途中にあるってことに。 手元に現代の地図はあるわけだし、これはひょっとして、オーバートンの駅で降りてこの地図通りに歩いて行けばエフラファ(物語の舞台の一つ)にたどりつけてしまうってことでは???
…というわけで私は旅の途中のオーバートンで途中下車し、Ordnance Surveyの地図と日本語訳文庫本についていた地図の拡大コピーを手にもって、現地に行ってみたのですが、 はっきり言ってしまえば、文庫本の地図だけで歩けてしまいました。それほど小説の中の地図は正確だったんです。
…というわけで、私には大変お世話になったOrdnance Surveyの地図ですから、今度も敬意を表して是非是非入手したいと思っています。 手にいれたら…、実際の地図を見てみないとわかりませんが、まあファルマスから走るとは言いませんが、プリマスからロンドンまでアレクシス・ヨークの労苦を忍びながらレンタカーの旅…くらいは本気で考えるかもしれません…といってもそれだけゆっくり休みをとれるのが何時になるかわかりませんから夢物語かもしれませんが。
2005年03月06日(日)
灰色港はターナーの絵画から
ロード・オブ・ザ・リング「王の帰還」のSEE版、 発売から1ヶ月もたっていますが、私の場合この時期、目をかばわなくっちゃいけないのでそうそうDVDにかじりついているわけにもいかず、少しずつ見ていて未だ終わらず…。 それでもとりあえず本編と、特典ディスクの1は見終わりました。
しかし海洋小説ファンの根が深い私が特典ディスクを見て「あらら!」と思ったのは、灰色港から去る船の船体モデルが、実はキャプテン・クックのエンデバー号だった、ということ。 確かに、あの船はバイキング船のように見えるんですけど、バイキング船にしては船体がぼてっとしているなぁと思っていたんですよ。 模型を作成したWETAのスタッフは、エンデバー号のボランティア・ガイドの方だとか。
また灰色港の色彩設計はターナーの海洋画を参考にしたとのことでした。 言われてみるとなるほど…と思います。
そして…これは私も詳しい方から教えていただいたのですが、灰色港のシーンで最初に桟橋に立っている第三者…というか、ガンダルフでもエルフ首脳部の皆さまでもないマント姿の人物がいますよね。あの方は船大工のキアダンだそうでございます。 さすが細部まで細かいことです。
それにしては、前の方のシーンで、ウンバールの海賊船は減帆もせずに速度を落として接岸していたりするんだけれども…川の流速があるはずで、いぃのかなぁ…などとツッコミを入れてしまう、私はいぢわるな海洋小説ファン。 そう言えば海洋系のHPで、あそこのシーンで「水夫長」というのが出てきますが、この英語は何?と書いてらした方がありましたが、答えは「ボースン」です。M&C的には「掌帆長」ですね。 この場合は水夫長の方がわかりやすいから良いのではないでしょうか?(オーク海軍なんてないでしょうし) ボースンという役名は帆など装備していない現代の軍艦にもあると聞いていますので、時と所で臨機応変というところでしょうか。
でも…思うんですけど、この「王の帰還」のSEE版は、なんというか… いえ今までの2本(1作目と2作目)はSEEを見るとすーっと話が通ったんです。 映画化のためにストーリーを原作からは改変したところも、それなりに筋が通っていることがわかりました。 ところが今回はどうも…、すっきり筋が通った気がしないのは私だけ???
いやゴンドール執政家親子の確執については、SEEの追加映像でそれなりに話は通ったと思います。 ただ…去年最初に劇場公開版を見た時から感じていた「クライマックスのずれ」と「どこが『王』の帰還かわからない」については、 SEEでは筋が通るだろうと期待していたのですが、少なくとも私的には、特に後者については、筋が通るどころかかえってわからなくなってしまって…。
比べてみると原作の方が、アラゴルンが王であると周囲に認められていくステップがはっきりしているように思うのです。 死者たちに王と認めさせるところは映画でもわかりやすいのですが、王のちからでエオウィンを癒すところは、映画だけではあれが王のちからゆえとはわからない。 一番の問題はパランティアだと思うのですよね。 パランティアをめぐるデネソールとアラゴルンの対比が、アラゴルンの王としての資質を際だたせているのに、デネソールからパランティアのエピソードを削り取ってしまい、アラゴルンはパランティアを通して自らが王であると宣言した筈なのに、このシーンの最後はペンダントが砕け散るという不吉な夢で腰くだけに終わってしまう…これが何を意味するのか、何を意味したいのか私はいまだによくわからないのです。
原作では、デネソールがパランティアに滅びを見て希望を失い、ファラミアを道連れに炎の中で滅びを選ぶのに対し、同じパランティアを見ながらアラゴルンは希望を捨てず、フロドにかけてみようとする。それを聞いた諸侯は、王を王と認め勝ち目の少ない最終決戦に従軍すると申し出る。 これをそのまま映画にしてくれた方が、わかりやすかったと思うのは私だけ?
クライマックスのずれ…すなわち黒門での最後の戦いより、その前のペレンノール野の戦いの方がインパクトが強すぎてどうにも盛り上がらない…は、原作の構成がそうであるから仕方ないとは言えますが、でも映画はそれをさらに加速してしまったような気がするのです。CGを多用したおかげで。
王の帰還を見て印象の強かった戦さ絡みのシーンは何処ですか? 私の場合は、ファラミアが絶望的な戦に出ていく前に、町の人たちが花を投げるところと、セオデン王が剣を打ち鳴らして全軍を鼓舞し「死を!」と叫びながらローハン軍が突っ込んで行くところです。 アクション的には激しい筈のCG戦闘シーンは、見事に左から右へと通り抜けて行ってしまいまして。
人間やはり、CGよりは人間の演技に感動してしまうものではないでしょうか? 「トロイ」が上手くやったのは、最後のクライマックスがトロイの滅亡で、城壁を破られた後は人間同士の戦いになり、国と共に滅ぶメネラオス王が感動をみんな持っていってしまったおかげで、CG臭さがすべて消えてしまったことのように、私には思われるのですが。
なんだか…ロード・オブ・ザ・リングは第一作の「旅の仲間」がいちばんすっきりと話がまとまっていた気がします。 クライマックスが拡散していた原作を、ボロミアを上手く使って筋を一つ通してまとめてくれたような気が。 そうよねぇ、そうだわよ! ボロミアったら、弟の後ろに出て父親を混乱させてる暇があるんだったら、王様の夢枕にでも立って喝の一つも入れて尻を叩けばいいのよ! 彼の語る白の都の夢を聞いて、王様は王様になる気になったんじゃないの? だったらそのエピソードを持ちまわってここでも使えば良かったのに…。
というわけで忙しい中、時間をやりくりしてSEEを見たにもかかわらず、どうにも文句たらたらの管理人なのでした。 やっぱりこれでアカデミー編集賞っていうのは…どうにも納得できない(だからM&Cに編集賞ではないと思うけれども、むしろ「シービスケット」だったかな) 翌年のアカデミー賞も終わっているというのに、あきらめの悪いことで。
2005年03月05日(土)
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